ヤブ医者と逆淘汰

 2022年の日本では、医者はハイステータスな職業で、社会的地位と収入においてトップクラスに位置します。

 けれども、お隣、中国において医者は収入が悪いわりにキツイ職業とされています。町医者は信用されておらず、医学部卒だと「あ、あまり勉強しなかったのね」と思われるそうです(留学生談)。

 つまり、医者の地位は「命を救う」という職責ではなく、社会が決めるのです。

 この記事では、医師免許がない自由市場ではどのようなことが起きるのかを思考実験します。

要約

 自由な医療市場では、患者が医者を評価できないという情報の非対称性のために「逆淘汰」が起きます。具体的には、ヤブ医者ばかり増えて、名医がいなくなってしまいます。医師免許を導入し、国が規制産業とする必要があります。

着眼点「情報の非対称性」

 医療の特徴は、患者が医者を正しく評価できないことにあります。医者の専門性は高く、患者は医者の優劣を一見して判断することはできません。

 逆に、医者は自分がどの程度の医者であるのかをある程度知っています。

 このようにお互いに知っている情報に差があることを「情報の非対称性」と言います。

フレームワーク

(1)変数

 そこで、医者には2種類「名医」と「ヤブ医者」がいて、患者は両方を区別できないという情報の非対称性があると仮定して話を進めます。

 そして

  • 名医:きちんとした修行を積んでおり、求める治療費は高い
  • ヤブ医者:真面目に修行をしておらず、求める治療費は低い

と考えます。

(2)モデル:需給曲線

 さて、図1は医療の需要曲線と供給曲線です。縦軸が医療費(価格)、横軸が医療(量)です。青が医療の需要曲線、緑が名医の供給曲線、赤が名医とヤブ医者の供給曲線です。

図1:医療の需要供給局線

 名医の供給曲線(緑)が医療の供給曲線(赤)より左なのは、

  • 同じ治療費では
  • (名医の医療供給)≦(名医+ヤブ医者の医療供給)

となるからです。

結果

(1)問題の帰結:逆淘汰

 さて、ここで医療になんの規制もせずに、医療市場が成立したとしましょう。

 「ヤブ医者を含む『医療の供給曲線』」と「何にも知らない患者の『医療の需要曲線』」の交点で、需要・供給・治療費が決まります。(図2)

図2:医者とヤブ医者

 すると、どうでしょう。名医はあまり参入せず、ヤブ医者がたくさんいる状況になってしまうのです。最初は何も知らないとはいえ、治療結果は患者でもわかります。すると、医療の信頼性が低下して、需要が萎んでしまいます。

 当然治療費が下落し、どんどん名医が市場からいなくなり、ヤブ医者ばかりになります。そして、最終的に健全な医療市場が崩壊してしまうのです。これが逆淘汰といいます。

図3:逆淘汰が起きた医療市場

 逆淘汰とは、情報の非対称性があるために、本来生き残るべきものが市場から撤退し、本来生き残るべきでないものが市場に蔓延することを言います。自然淘汰によって起こる進化とは、逆の結果になるので「逆」淘汰といいます。

(2)施策:医師免許

 ここから、医師免許の必要性が生まれます。政府がヤブ医者を排除し、名医に免許を授けるのです。

 これは医療に参入規制を儲け、供給を制限することで、医療費を高額にするという副作用があります。しかし、制限されたのは「ヤブ医者」で、本来支払うべき価格が実現したと考えるべきです。

 こうして、医者になるために高いハードルが課せられ、患者が医者を信頼し、医者は高い収入を得るという形で、医療市場が成立します。

図4:医師免許のある医療市場

議論

 ですから、健全な医療市場のためには

  • 医師免許を取らないと医者になれない(ヤブ医者の排除)
  • 良質な医療が受けられると患者が信頼している(高い治療費を許容)
  • 高収入であるから、ちゃんと勉強して医師免許を取ろうとする(医学部生の努力)

が循環している必要があります。この循環が壊れると、逆淘汰が起こります。

 我々の健康と幸せのために、医者の地位は社会が守る必要があり、そして実際に守られているのです。

 がんばれ、医学部生!

※日本でも中国でも医療は規制産業で、治療費は市場メカニズムに従っていません。ですから、上記の考え方はあくまで「思考実験」です。

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