【要約と書評】21レッスン/近未来社会論〜無用者階級から瞑想まで〜

21レッスンズ 雑記ブログ
21レッスンとは?
  • 『21 レッスン』とは、AIや生命工学のイノベーションが進む近未来について、歴史的視野から考察する世界的ベストセラーである。
  • ユヴァル・ノア・ハラリ著、 柴田祐之訳『21 lessons』河出書房、2019 年
  • 原題: 21 Lessons for the 21st Century
  • ハラリの代表作:『サピエンス全史』、『ホモ・デウス』

注意:黄色の枠内を読めば『21レッスン』の要約となるが、本記事はあくまで書評である。

1. 『21レッスン』のコンセプト

 『21レッスン』は近未来社会への目を開かせてくれる。冒頭にこうある。

もし、子供たちに食事や衣服を与えるのに精一杯なあなたを抜きにして人類の将来が決まったとしても、その決定がもたらす結果をあなたも子供達も免れることはできない。これはなんとも不公平だが、そもそも歴史とは公平なものではないのだ。

p7『21 lessons』河出書房、2019 年

 だから、この本は「メキシコやインドやアラバマ州のどこかの時代後れの学校で身動きが取れなくなている十五歳の子供(344ページ)」をも対象にするし、すべての日本人をも対象にする。

個人的な話をすると

私はただの不勉強な大学生であって、世界的教養人が書いた著作を論ずるのは不適切かもしれない。

 しかし、冒頭に書いてあるように時代はすべての人を巻き込んでいく。あなたもその一人だ。つまり、どんな教養人も「君は知的ではない。確かに、今から話すことは君の将来に影響を及ぼすが、知的ではない君は議論に参加してはならない」と言う資格はない。

 『21レッスン』のコンセプトは、「近未来社会とは?」であるのと同時に、全ての人を対象にする啓蒙書となっている。

2. 無用者階級の出現と、高学歴のコンサル人気

2-1. 近未来の世界観

さて、まず『21レッスン』の近未来世界観に言及する。もちろん、視点はイノベーションのゆくえに注がれる。

しかし、ハラリは「技術革新(イノベーション)」という肯定的な用語を用いない。その代わりに、「技術的破壊」という否定的な用語を用いる。

 「技術的破壊」とは、既存の社会を破壊する技術発展のあり様だ。

 技術的破壊は情報テクノロジーとバイオテクノロジーを中心に展開する。雑ではあるが以下のように整理できる。

要約1、技術的破壊の発生
  • 人工知能(AI)が非熟練労働者の雇用を奪う
  • 結果、働くという存在意義を失った「無用者階級」が出現する
  • バイオテクノロジーが人間の心理現象を解明する
  • 結果、アルゴリズムの言うことが正義となり、個人の自由は権威を失う
  • (p52)(p73)(p74)

※技術的破壊の近未来については『ホモ・デウス』が詳しい。

2-2. 「技術進歩と失業」の主張は平凡

しかし、ハラリに言われなくとも、

2013年にオックスフォード大学オズボーン氏が発表した論文以来、「AIによる大量失業社会の到来」の言説は何度も出回ってきた。

 また、ハラリは言及していないが、技術進歩によって雇用が失われることは初めてではない。技術的進歩によって、雇用が失われることに対する危機感は歴史上何度もあった。

例1:ラダイト運動

 有名なのは19世紀初頭イギリスでのラダイト運動。産業革命と機械化に伴い、失業することを恐れた労働者が機械を壊して回った。IT開発を阻止しようとする運動も、ネオ・ラダイト運動と言われている。

例2:千歯こき

 マニアックなところだと、マンガ『カムイ伝3』では村の優秀な青年が脱穀農具「千歯こき」を作って、村の女どもにボコボコにされるシーンがある。当時、脱穀は女性の重要な仕事であった。

 もちろんこれは創作物語だが、中世ヨーロッパではギルドと呼ばれる集団が技術革新を抑えていたように、技術革新の抑制が公然と行われていた時代があったのというのは間違いない。

例3:家事労働

 また、視点を変えると女性の社会進出もそのように考えられる。

 例えば、料理・洗濯・掃除・子育ては外注することができる。いわゆるメイドだ。これらの家事は本来的には労働である。歴史的には無賃長時間労働として、女性が担っていた。

 しかし、水道・ガス・電気・洗濯機・食洗機・掃除機・冷蔵庫といった技術進歩が、状況を一変させる。

 水くみ・火起こし・風呂焚きに関しては女性は完全に失業状態で、他の仕事も随分楽になった。これが女性の社会進出の前提となる。

2-3. 「無用者階級」の概念は新しい

 ハラリのもつ独自性は、失業を推し進めて「無用者階級」という新しい概念を考案したことにある。

 無用者階級とは

AI革命による仕事が消える上、新しい職業では高度な労働者しか働けないので、多く人々が労働者としての存在価値が奪われること

を端的に表現した言葉だ。

 さらに、

  • AIを管理し巨万の富を基盤に、バイオテクノロジーで身体を作り変える超人階級
  • 膨大な数の無用者階級

の二極分化が起きるとまでいう。

流石に二極分化の話は荒唐無稽に思えるが、無用者階級の出現は十分考えうると個人的には思う。

2-4. 技術的破壊前の高学歴大学生の動向

 では、技術的破壊と無用者階級の出現前に、日本の高学歴大学生は一体何を考えているのか?

2019年6月の【6/1速報:東大京大・21卒就職ランキング】と題されたワンキャリアの記事である。

 ランキングを整理するとこうなる。

順位業種会社名
1~7コンサルアクセンチュア、マッキンゼー、野村総研など
8~9商社三菱商事、三井物産
9~12コンサルデトロイト、ベイカレント、経営共創基盤
13,14金融ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー

 実は16位、19~21位にもコンサル会社がランクインしている。

 そう、東大生・京大生の人気はコンサル業に集中している。

 その理由は同社「足踏みする総合商社、飛躍するコンサル」にあるように、就活生が転職先でも使えるスキル成長を重視して就職するからだ。

では、技術的破壊の前にコンサルに駆け込むことに合理性はあるか?

 日系大手で成果をあげて転職した新人コンサルは、2030年の新サービス『Googleコンサル』に3年以内に勝てるだけに成長できるだろうか?

※「Googleコンサル」は、2019/1/14現在、しまうまが勝手に言ってるサービスで実際にはまだ存在しない。

 コンサルの大量失業には一流コンサルに「Googleコンサル」が勝つ必要はない。「Googleコンサル」は多くの普通のコンサルと新人コンサルに勝てればよい。

芸術市場に参入して多くの人間の作曲家や演奏家や歌手に取って代わるためには、アルゴリズムはただちにチャイコフスキーを超えなくてもいい。ブリトニー・スピアーズよりうまければ十分だ。

p50『21 lessons』河出書房、2019 年

と同じだ。

 コンサルは人的アルゴリズムを提供するが、今後は機械的アルゴリスム全盛の時代になるのは間違いない。認知的スキルは人間の専売特許だったが、AIの方が得意そうだ。

就活生が求めているスキル

  • (そもそも)激変する社会の中ですぐに陳腐化する
  • AIコンサルの方がうまくできる

という可能性はある。

 と考えると、コンサルに行くのはよくない選択肢かもしれない。

 ただし、2019年現在、高度な情報技術を持っていない中産階級の日和見主義者にとって、「(しばらくの間は)どの業界にも転職できそうな(そして高収入の)職種」というのは魅力的だ。

 そもそも転職前提の就職であるので、彼らにとって長期的に考えてコンサルがどうかは関係ない。その点でコンサルに行くというのは合理的だ。当面の間はコンサル人気は続くと推測できる。

 もし意見があれば、ツイッターに教えて欲しい。

3. グローバルな議論と知的カオス

 第2~3章ではグローバル社会の広範な話題についての議論が展開する。

詳細は『21レッスン』を読んでほしい。

 ここで思うべき感想は、広範で根深い問題に議論が及んでいるので頭が混乱するということだ。

 「なんだその感想は?」と思うことなかれ。この知的混乱自体が次の第4章「真実」に繋がる布石となる。

 次の第15レッスンはこう始まる。

(前略)現代のきわめて重大な問題や展開をいくつか概観してきた。もうたくさんだ、とても手に負えないという執拗な思いが頭に残ったとしたら、あなたはまったく正しい。すべて処理できる人など、いるはずもないのだから。

p281『21 lessons』河出書房、2019 年

 こうして、私がもっとも感銘を受けた章に続く。

要約2、グローバルな議論
  • 広範に渡り複雑

4. ハラリの人間観:知性の限界と虚構

4-1. 事実:知性の限界

 この後に、来るのは次の指摘だ。

要約3、人間の知性の限界
  • 人間は合理的ではない
  • 事実:人間の決定は合理的な分析ではなく、情動的反応と経験則に基づいている
  • 人間は自分で物を考えていると思って錯覚しているが「集団思考」する
  • 事実:必要とするものはほぼすべてを他人の知識や技術に頼っている
  • (p281~283)

 要は人間は「自分の頭で考えている」と誤解しているが、実はおバカさんだと言う。

4-2. 事実:正義の虚構性

 そうなると気になるのは「身の程知らずにも『正しさ』を主張する人が存在するメカニズム」だ。ハラリはこう言う。

要約4、正義の論理の虚構性
  • 具体的な因果関係が見えないグローバル社会では、正義の議論は困難なはず
  • 実際には以下の論理で行われることが多い
  • 1、問題の単純化
  • 2、人間ドラマ
  • 3、陰謀論
  • 4、ドグマ(宗教やイデオロギー)に頼る
  • 要するに、人間は虚構に頼って生きている
  • (p296~297)、(p302)

4-3. 分析:虚構を求める精神性

 知性の限界と虚構の存在を指摘した。では、なぜ虚構は生まれるのだろうか?

人は「自分に存在価値を与える物語」

かつ

「完全な理解ができないがゆえに『それっぽい』物語」を求める

(p356~p357)

 宗教もイデオロギーもまさにこれに当てはまる。しかし、ハラリは「物語」を知性の限界がもたらした虚構として一刀両断するのだ。

個人的には↑の指摘が、最もお気に入りだ。痛快である!!!

(私は反知性主義者に見えるかな。だが、ソクラテスの「無知の知」、ゲーデルの「不完全性定理」など、知性の限界を知ることも知性のうちだと思うのだが…)

 ちなみに、パスカルは「あることについての真理が知られていない場合、人間の精神を固定させる共通の誤りがあることはよい事」と17世紀の著書『パンセ』で述べている。

(ちなみに、ヘクトパスカルのパスカルは、この「パスカル」である。若い時は高名な科学者だった。)

 これはある意味、虚構にどっぷり浸かってしまった方が幸せであるという指摘で興味深い。『進撃の巨人』のOP曲でいう「家畜の安寧、虚偽の繁栄」だ。

4-4. 虚構にあふれた世の中での信頼できる情報筋

 ちなみに、虚構であふれた中でも信頼できる情報を知る方法には、以下のものが挙げられていた。

信頼できる情報の入手法
  • 入手しやすく面白く無料で低品質で情報ではなく、情報入手にお金をかける
  • 数百年に渡り信頼できる知識の源泉である(科学界で信頼されている)科学文献を読む努力をする
  • (p315~316)

 その点で月額500円で有料チャンネル会員を募集し、論文を引用する形で心理学情報を発信するメンタリストDaiGoが流行るのも、うなずける。

5. 瞑想の可能性とシリコンバレー

5-1. 最終レッスン

そして、第21レッスン。最後のレッスンは意外なものに帰着する。

まずは冒頭。

これほど多くの物語や宗教やイデオロギーを批判してきたのだから、自らも矢面に立ち、私のような懐疑的な人間が、どうして毎朝依然として晴れ晴れとした気分で目覚めることができるのかを説明してこそ公平というものだろう。

(中略)

苦しみは外の世界の客観的な状況ではない。それは、私の心によって生み出された精神的な反応だ。これを学ぶことが、さらなる苦しみを生み出すのをやめるための最初のステップとなる

p398&p402『21 lessons』河出書房、2019 年

 瞑想(マインドフルネス)。日本風に言えば「禅」についてが、第21レッスンの内容となるのだ。

要約5:精神安定のための瞑想
  • 苦しみは外部からの世界によってではなく、自分によって生み出される
  • 瞑想によって解決できる

 こうして、「近未来の技術的破壊、グローバルな議論、人間の知性の限界、瞑想」と言った広範な議論が展開されて『21レッスン』は幕を閉じる。

5-2. ハラリはなぜ瞑想にハマったのか?

 『21レッスン』の要約をさらに要約すると、「近未来の技術的破壊(要約1)を前に、懐疑主義者ハラリが瞑想(要約5)を始める」と雑にいうことができる。

世界的教養人ハラリが瞑想にハマった理由を考察したい。

 瞑想とはもともと仏教にある宗教儀式「禅」だ。

5-3. シリコンバレーで瞑想が流行る理由

 禅は「マインドフルネス(瞑想)」という形で仏教色が取り除かれて、米国に輸出された。昔で言えば、もともとはApple創業者スティーブ・ジョブズも「ZEN」にハマっていた。今ではGoogle、Facebook、Twitterなどでも社内研修に取り入れられている。

 瞑想流行の背景には、

  • イデオロギーや宗教といった虚構の崩壊
  • 立て続けに起きる変化の存在

の中で自らの居場所を見失いな社会がありそうだ。だから、無神論と技術革新の中心地シリコンバレーの人々に流行ったのではないだろうか?(仮説)

5-4. 「シリコンバレーだから瞑想が流行る理由」の不適切さ

 といった分析を我が物顔で言おうとしていたが、これをシリコンバレー限定と書くのは大きなミスリードを生みそうだ。

事実:ドグマはもともと崩壊している

 宗教やイデオロギーといったドグマが完全に信じられていた時代はない(p382)。だから、ハラリの言うように、宗教自身が「信者の不信感」を克服するシステムとして、疑念を「最悪の罪」としたのだ(p382)。

 ドグマは有史以来、常に崩壊していたと言える。

事実:変化も常にしている

 変化についても同じことが言える。古代ギリシアの思想家が「万物は流転する」と述べ、鎌倉時代に「諸行無常の響きあり」と歌われもした。

 これは物理学の立場からも同じことが言える。局所的に散逸構造平衡状態に形成されても、長い目で見ればそれは壊れる。本当に変化がなくなるのは、膨張した宇宙が絶対零度まで達し、すべての粒子の運動が停止した時だ。

 人類史にとって変化がなかった時代はないのである。

結論

 「シリコンバレー『特有の理由』があって瞑想は流行った」という言説は、不適切だと言える。

5-5. 瞑想の可能性

 全時代を通じて人間社会は「ドグマへの不信」と「不変な変化」に苦しめられてきたのだ。過去の偉人と問題を共有しているのである。

 ならば、過去の人類の遺産にその解決策があるのではないかとは言えないか?

 その点で、悠久のときに耐えてきた仏教由来の瞑想は、精神の安定に大きな可能性を秘めている。この歴史性が欧米の教養ある人々が瞑想にハマる理由であると推測する。

シリコンバレーに触れたのは「欧米で流行っているなら価値のある」とする貧相な輸入精神によらずに、瞑想についての議論を展開したかったからだ。

6. 『21レッスン』のレトリック

ただ、この記事を読んで『21レッスン』を読んだ気にならないでいただきたい。

 この趣旨の主張ならば、もはや誰でもツイートできるが、主張の間にあるハラリの膨大な知識量が大いなる知的装飾になっている。それこそがこの主張の信頼性を高める最も効果的なレトリックだ。

 レトリック抜きに理解した気になるのは、顔の化粧を洗い落として、髪と眉毛を剃り、「目・鼻・口・耳がこの女性の要約だ」と言ったのに等しい。ガンジーの言葉でも家族が引用すると途端に疑わしいものになるのと同じだ。

 ぜひ実際に手にとって読んで欲しい。

 また、できれば、しまうまの記事に意見をくれると嬉しい。


21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考
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