貿易は社会を豊かにするのでしょうか?
結論としては
- 貿易は社会全体としてはよろしい
- しかし、社会の一部に損害をもたらす
と言えます。
1、貿易発生のメカニズム
※詳しくは、「【一般均衡】貿易発生のメカニズム」をご覧ください。
閉鎖経済では、相対価格が変化することで国内消費と国内生産が一致します。

しかし、開放経済に移行すると、国際市場での相対価格を受け入れなくてはいけませんから、消費と生産が一致しなくなります。
この差を埋めるために、輸出と輸入が生まれるのです。

2、貿易の「交換の利益」
それではより詳しく見ていきましょう。
生産量が変わらないとして、消費側から貿易の利益を考えます。
下の閉鎖経済の状態から貿易が開始され、開放経済へと移行したとしましょう。

国によって生産の得意不得意、財の好き嫌いがありますから、価格が異なります。1財の相対的な国際価格が高いとしましょう。
すると、前と生産量は変わりませんから、等収入線が下のように変化します。

等収入線は予算制約線ですから、これに合わせて効用が最大になるように消費が決定されます。
国内での需給不均衡は貿易によって解消されます。
すると、社会的無差別曲線が灰色から黒へ右上に移動します。
これは貿易開始前より社会の効用が増大したことを意味します。
これを「交換の利益」といいます。

3、貿易の「特化の利益」
生産量を変えることができるとするとどうでしょう?
等収入線を右上にシフトさせて、利潤を増大させることができます。
そこで生産要素を調整することで、下図のような生産量を達成したとします。

企業収益の増加を、達成できる効用の増大で測ってみます。
すると、さきほどより右上の社会的無差別曲線で、より高い効用が達成できることがわかります。
これを、「特化の利益」といいます。

4、まとめと論点
(1)貿易が社会的によろしい
ここでの結果を言葉にしてまとめましょう。
貿易が始まると、海外のモノを安く手に入れられるので社会の満足度があがります。(交換の利益)
さらに、利潤が増大する方向に産業構造が変わると、より社会の満足度があがります。(特化の利益)
したがって、経済学的には自由貿易は推奨すべきということになります。

(2)貿易の副作用
ただし、2つの大きな批判が考えられます。
値上がりする財がでるじゃないか!?
一つは、一部の財の価格が上昇して今までの消費ができなくなるという点です。
ただし、ほかの財を消費する中で全体的な効用は上がっていますから、問題ないでしょう。
衰退産業がでるじゃないか!?
二つ目の批判は、「確かに社会全体は豊かになるが、一部の人の所得が下がるのではないか」という批判です。
これは深刻な指摘です。
上の例では2財の多くが輸入されていますので、2財の産業従事者の多くが解雇や倒産という形なるでしょう。
国全体としては所得が増加しているわけですから、2財の産業従事者の損失を1財の利益から補填することが数字上は可能です。
しかし、富の再配分は政治的な調整が必要で、スムーズにいくとは限りません。
この政治的な調整が必要であるという点で、貿易は大きな不安要素を抱えているといえます。