3.市場均衡は理想的な資源配分を達成する【エッジワースの箱】

一般均衡理論

 市場均衡はもっとも効率的という結論が、部分均衡理論から導かれました。

 しかし、部分均衡理論では1財しか考えていません。

 他の財への波及効果も含めて、社会にとってよいのでしょうか?

 ここでは2財の交換経済について考えます。

 エッジワース・ボックスという視覚的に理解できる方法を用います。

(n財の一般均衡モデルは、こちら→「n財の一般均衡モデルの構築」)

1、エッジワースの箱とパレート最適

(1)エッジワースの箱

 エッジワースの箱とは、

消費者A消費者B
1財の量
2財の量

の4つの情報(表での?)を視覚的に表したものです。

 具体的には下のように描かれます。

(2)最も望ましい状態 〜パレート最適〜

 ここで、両者の無差別曲線を描いて、「あげる」「もらう」を通じてパレート改善を続けた場合、次のようにパレート最適に到達します。

 したがって、パレート最適は

または

ときに達成されます。(詳しくは、「エッジワース・ボックス/交換経済のモデル化

(3)問い

 ただし、これは「あげる」「もらう」に関して両者が複雑な交渉をしなくてはいけません。

 ピンポイントでパレート最適を見つけるのは難しい。

 ところで、部分均衡理論で市場メカニズムに任せると、社会的余剰が最大になることをみました。

 では、2財の経済でも市場機構にゆだねるというのはどうでしょうか?

2、消費者行動

(1)市場の導入

 市場を導入するとなにが起こるのでしょうか?

 財に価格がつくのです。

 たとえば

  • 1財に価格p1
  • 2財に価格p2

がついて、これらを一度固定的とみて考えましょう。

(2)消費者Aにとっての予算制約線

 消費者Aは最初、緑の点の初期保有をもっています。

 これをすべて現金化すると仮定すると、初期保有からの収入は

  • 【1財価格p1】×【1財初期保有ω1】+【2財価格p2】×【2財初期保有ω2】

になります。

 したがって、これが予算Iになります。

 一方で、予算Iをすべて使い切って買い取れる組み合わせは、

  • 【予算I】=【1財価格p1】×【1財消費x1】+【2財価格p2】×【2財消費x2】

です。

 ここで、上のふたつの式を見比べると、

  • 【1財初期保有ω1】=【1財消費x1】
  • 【2財初期保有ω2】=【2財消費x2】

のときも同じ式が成り立つので、予算制約線は初期保有点を通ります。

 したがって、つぎのようにかけます。

(3)消費者Aにとっての効用最大化点=需要

 予算制約下で効用最大化すると、予算制約線無差別曲線が接する点で、需要が決まります。

 たとえば、下図のとき、消費者Aにとって

  • 1財を供給
  • 2財を需要

するのが最も合理的です。

 

(3)消費者Bの効用最大化

 では消費者Bはどうでしょうか?

 実はわかりやすいことに予算制約線は消費者Aと同じになります。

 消費者Bの「目」がある点が原点と考えてください。

 予算制約線の傾きは錯角ですので、消費者Aと等しくなります。

 また、同じ理屈で初期保有を通るように予算制約線が引かれます。

 消費者Bが効用最大化すると、下図のように1財の需要と2財の供給が生まれます。

3、需要と供給

(1)各人の需要

 いままでの議論をまとめると、需要は下図のようになります。

  • 紫の点=Aの需要
  • 青の点=Bの需要

です。

(2)1財の需要と供給

 ここで1財の需要は下図のように表せます。

 また、総供給は初期保有分しかありませんから

 1財ではオレンジの超過供給が生まれています。

(3)2財の需要と供給

 同様に考えて、2財では超過需要が起きています。

(3)需給ギャップ

 よって、1財と2財の需給ギャップは下図のように表せます。

4、市場機構と効率性

(1)市場機構

 ここで市場メカニズムが導入され、価格が変動するとしましょう。

 すると、下のように1財と2財の相対価格(=図での傾き)が変化し、市場均衡を達成することができます。

  1. 青(需給ギャップあり)
  2. 相対価格の変化
  3. 緑(市場均衡)

という具合に状態が移行します。

(2)市場均衡はパレート最適

 ここで、冒頭で無差別曲線が接しているとき、パレート最適とだったことを思い出してください。

 下図を見ると、市場均衡でパレート最適が達成されていることがわかります。

 わざわざ、ピンポイントに「僕が1財を2個あげるから、君は2財を3個ちょうだい」「ん〜。君が1財を3個あげる、僕が2財を2個あげるだとどう?」「それはねえ」といった面倒な交渉をしなくていいのです。

 「1財と2財の相対価格p1/p2は1.8でどう?」「いや、1.4だな」という交渉をすれば自然とパレート最適が達成されるのです。

 ここで重要なのが、下4つの「?」の調整を相対価格一つですることができるということです。

 1変数交渉により取引が円滑になり、さらに両者が複雑な4変数交渉をしたときの最善の答えが、導かれるというわけです。

消費者A消費者B
1財の量
2財の量

5、おわりに 厚生経済学の第一基本定理

 この記事では2財交換経済のとき、市場均衡がパレート最適になることをみてきました。

 しかし、n財交換経済+生産経済でも、市場均衡はパレート最適になることがわかっています。

 これを厚生経済学の第一基本定理と言います。

 ところで、

「皆さんの中には、エッジワースボックスってなんだよ。くだらねえな」

と思われた方も多いと思います。

 実は、エッジワース・ボックスはそれ自体に理論的な価値はありません。

 それよりも、一般性の高いレベルで証明されている結論「市場均衡はパレート最適」を視覚的に理解できるクラスルーム・ガジェットとして、大きな意義を持つのです。