ソロー・モデルの意義と批判

ソロー・モデル

 経済成長理論であるソロー・モデルを意義と批判の両面から評価します。

 具体的には

  • 先行研究の問題点
  • 問題点の解決
  • 新しい示唆

に触れたあとで、

  • ケインズ派
  • 新しい古典派
  • 経済統計
  • 内生的経済成長理論

からの批判について解説します。

1、ソロー・モデルの意義

(1)先行研究 〜ハロッド=ドーマー・モデル〜

 ソロー・モデルは、1956年に発表された経済成長に関する理論です。

 1956年当時、最も有名な経済成長理論は、ハロッド=ドーマー・モデル(1939年ごろ)でした。

 ハロッド=ドーマー・モデルは、貯蓄・資本の生産性と経済成長率を定式化しました。

 その結論は、「貯蓄を増やし、それを下でにうまく投資を行うことで経済成長する」というものでした。

 定式化と説得力のある結論の2要素をもった理論でしたが、経済成長の安定性に難点がありました。

  • 経済成長率と労働成長率が一致するときのみ、均斉成長が達成される
  • 一度、均斉成長が崩れると、永遠に修復されることはない

 この経済成長の不安定性は、「ナイフの縁の上のような危ない経済成長」という比喩でナイフ・エッジと呼ばれました。

(2)ソロー・モデルの安定性

 1956年にロバート・ソローが発表したソロー・モデルは、この安定性を解決しました。

 下の位相図によれば、一人当たり資本量がどの位置にあったとしても、長期的には定常状態Eに移行します。

 もし何らかのショック(例:戦争による資本破壊)が加わって、定常状態から外れても回復可能です。

(3)技術進歩の定式化

 さらに、モデル構築の過程で、重大な要素が盛り込まれました。

 技術進歩です。

 産業革命以後、技術の重要性は周知のものとなりました。

 しかし、他の経済理論と技術の重要性を、統一的に理解するモデルは存在しなかったのです。

 ソロー・モデルは技術と経済成長について次のような結論を導きました。

  • 技術進歩のみが、長期的な経済成長率(一人当たり)に影響を与える
  • 技術進歩と人口増加が、長期的な経済成長率(国全体)に影響を与える

というものです。(→詳しくは「技術進歩が経済成長に与える影響」)

 さらに、成長会計とよばれる実証研究手法を考案し、実際に経済成長の要因を分析しました。(→詳しくは「成長会計」)

 その結果、アメリカの経済成長の50%〜75%は技術進歩のためであることを実証できました。

 経済学の分野で、技術進歩の定式化に成功した瞬間でした。

<脱線:日本の成長会計>

2、ソロー・モデルの批判

(1)ケインズ派「景気循環は?」

 ソロー・モデルは安定性を核としますが、安定的すぎました。

 不況や失業の発生がモデル化できていないのです。

 ケインズ派は不況に注目する理論、新古典派は市場メカニズムに信頼する理論と言えます。

 この点でソロー・モデルは新古典派的でした。

 したがって、ケインズ派から「景気循環は?」と批判されることになるのです。

 ちなみに、最初にこのことを指摘したのはケインズ派であるソロー自身でした。

(2)新しい古典派「ミクロ的基礎付けは?」

 1970年代になると、マクロ経済学もミクロ的基礎付けが必要であると議論されるようになりました。

 ミクロ的基礎づけとは、単に「所得が増えると、消費が増える」ではなく、「所得が増えると、効用最大化問題の解が変わるから、消費が変化する」と考えるようなことを意味します。

 すべてを最適化問題と解釈するということです。

 この観点からすると、ソロー・モデルは問題を抱えていました。

 所得によっても貯蓄率が変わらないという貯蓄率一定の仮定を掲げていたので、最適化問題の解になっていなかったのです。

(3)経済統計「先進国と途上国の格差は?」

 また、経済統計からもソロー・モデルが現実を反映していないとの批判がなされました。

 ソロー・モデルの核である「長期的には定常状態に帰着する」を肯定するなら、「すべての国の一人当たりGDPは収束する」といえます。

 しかし、現実には先進国と(新興国を除いた)途上国の格差は拡大していました。

 条件付き収束という概念が導入され、「国ごとによって投資率・技術水準・人口成長率が異なるので、国ごとによって定常状態の水準は変わる」という理屈で解決されました。

(4)内生的成長理論「技術進歩はどう決まる?」

 ソロー・モデルは「経済成長にとって、技術進歩率が重要であること」は指摘しましたが、「技術進歩率にとって、何が重要であるか」について答えてくれません。

 技術進歩がモデルの外で決まる外生的な技術進歩を仮定しているからです。

 これではどうやって技術進歩率をあげて経済成長させるかという政策担当者の疑問を解消することができません。

 1980年代以降、ポール・ローマーを中心に内生的経済成長理論が発展し、今ではスタンダードなモデルは内生的経済成長理論に移行しています。

3、さいごに

 利点と欠点をあわせ持ったソロー・モデルですが、経済成長を議論する上である程度は妥当で示唆的な結論を引き出せます。

 その点で、議論の出発点にすべきモデルであると考えられます。

 個人的には好きな理論です。