東大公共政策大学院は、進学すべきところか?→おすすめだよ!

序文

 私は東大公共政策大学院に通っている学生です。その立場から、東大公共政策大学院進学を検討中の方向けに記事を書きました。

 なるべく網羅的に解説したので、進学を考えている方はぜひ参考にしてください。

全体像

(1)問題の構造

 問いは「東大公共政策大学院は進学すべきところなのか?」です。これは次の要素に大きく分解できるかと思います。

①入口は?(入試)

②中身は?(理念:供給者の目的)

③中身は?(勉強:需要者の真面目な目的)

④中身は?(生活:需要者の不真面目な目的)

⑤出口は?(進路)

⑥以上を踏まえて、進学すべきか

(2)前提の選択

 ①〜⑤を前提として説明します。

(3)論点の選択

 ⑥が論点として選択します。

(4)付録一覧

 最後にお役立ち情報をつけました。

前提

(1)理念

東大公共政策大学院の目的

 東大公共政策大学院は「時代の要請に応える政策実務家を育成すること」を目的にしています。重要な点は

・分野としては「政策」についての大学院であること

・「研究者」ではなく「実務家」を育成する大学院であること

になります。また、卒業後に輩出したい人材は、キャリア官僚だけではありません。

・国家機関の公務員

・地方自治体の公務員

・国際組織の職員

・NGOの職員

・シンクタンクに勤めるエコノミストや政策アナリスト

といった政策のプロの育成を目指しています。そして、「時代の要請に応える」の含意は「グローバルな視野、政策課題の発見、政策の構想力、コミュニケーションや合意形成について秀でている」かと思われます。

参考:令和3(2021)年度 東京大学大学院公共政策学教育部 専門職学位課程学生募集要項

東大公共政策大学院の求める学生像

 上記の目的を達成するために、求める学生像は、

・公共政策のプロとしての活躍を目指す人

・社会の課題を認識し、対応策を立案し、国民に伝達し、合意形成できる人

・政策の基礎になる法律、政治、経済をバランスよく学習したい人

です。2番目のハードルが異様に高いです。現実には「政策に関わりたい人」「入試の成績がいい人」「法律、政治、経済をバランスよく勉強したい人」を求めているでしょう。

参考:令和3(2021)年度 東京大学大学院公共政策学教育部 専門職学位課程学生募集要項

(2)勉強

コース

 東大公共政策大学院は5つのコースがあります。「法政策」「公共管理」「国際公共政策」「経済政策」「国際プログラム(MPP/IP)」です。それぞれ次のようなコースです。

・法政策:法律の理論と実践を学ぶ

・公共管理:政治学や行政学の視点から公共経営を学ぶ

・国際公共政策:外交や国際援助などの国際政策を学ぶ

・経済政策:政策の場で実践するための経済学を学ぶ

・MPP/IP:英語だけで修了できるプログラム (※留学生が多い、主に9月入学、上4つとは別枠、Master of Public Policy, International Program)

参考:東京大学公共政策大学院(GraSPP )の概要 2022年5月 説明会資料

授業

 私は経済政策コース所属なので他コースのことはよくわかりませんが、一言で言えば、理論と実践のバランスが取れている大学院だなと感じています。

 経済政策コースは必修で「ミクロ経済学」「マクロ経済学」「計量経済学」を受ける必要があります。理論レベルは高度ではありませんが、政策的実践を意識した内容になります。問題のシチュエーションが政策に関わるものであったり、RやMATLABを用いたプログラミング演習もかなり手厚くなされます。

 必修以外では、政策の分析や立案をする授業やゼミが非常に豊富です。東大の他研究科で著名な方の授業では学問の視点から政策を学べますし、官僚や政治家だった方々からは実務の観点から政策を学べます。演習や発表の機会も多いのでアウトプットする場もあり、楽しいです。授業の一環として現地視察をするものもあり、勉強という名目で旅行に行く機会があります。

特徴:修士論文がない

 東大公共政策大学院には、修士論文が課されない、という大きな特徴があります。得られる学位も「公共政策修士(専門職)」になります。

 これは東大公共政策大学院が、研究大学院ではなく、専門職大学院であるからです。東大公共政策大学院の正式名称は「東京大学大学院公共政策学教育部」です。なお、通称は「GraSPP(グラスプ)」です。これは英語名が「Graduate School of Public Policy」であることに由来します。

撮影:しまうま

特徴:国際経験を積める機会が豊富

 東大公共政策大学院は、国際経験を積める機会が豊富です。

 第一に、留学生が多く在籍しており、日常的に接する機会があります。48%が留学生で、2004年の設立以来65カ国からの留学生を受け入れています。日本で最も国際的な大学院の一つです。留学生が評価する点は「日本政府に最も人材を輩出している大学であること」「官庁街や中央ビジネス街との距離が近いこと」「各国の著名な公共政策大学院のパートナーであること(北京大、ソウル大、シンガポール大学、コロンビア大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、パリ政治学院など)」などのようです。(参考:Why MPP/IP?

 第二に、留学の機会も豊富です。有名なプログラムは「キャンパスアジアプラス」で、東大に匹敵するアジアの海外大学院に留学することが可能です。提携校は北京大学、ソウル大学校、シンガポール国立大学で、日中韓星のうち原則3カ国で学ぶことができます。英語に自信のある優秀な方はぜひチャレンジして、アジアにおける日本のプレゼンスを上げて欲しいです。(参考:キャンパスアジアプラス

(3)学生生活

学生の雰囲気

 東大公共政策大学院の雰囲気は、とてもいいです。社会のために役立ちたいと考える学生が集まるので嫌な奴がいません。雑談から真面目な議論に発展する場合もよくあり、それぞれが「思う所」を持っている印象です。

 学生が仲良くなれる環境でもあります。学生間交流スペースであるラウンジに行けば知り合いがいるという状況ですし、グループ課題もよく出ます。

 イベントもしばしば開催されています。学生自治会主催(インスタ)のイベントとしては、新入生ウェルカムイベント(入学直前の3月末)、留学生と映画を一緒に観る会、ピクニック会などがありました。学生間で自然発生したイベントとしては、入学式後同期会、BBQ、ドライブ、忘年会などがありました。

 かといって、イベントに出なければいけないというプレッシャーや、変なノリはないので、安心してください。緩い連帯で繋がっている雰囲気です。

授業以外の活動

 公共政策大学院の授業では課題が多いので、とても多くの余暇が過ごせるわけではありません。ただ、研究室にこもりっきりとような生活にはなりません。空いた時間は比較的多くあります。ラウンジで友人と時を過ごすこともできますし、やりたい勉強・趣味・就活する時間は十分にあります。Rを用いた計量経済分析のリサーチアシスタントをしている方もいます。また、PwCコンサルティングの方と共同研究プロジェクトも進行中で、それに噛んでいる方もいます。

施設

 東大公共政策大学院は、本郷三丁目駅が最寄駅です。下の写真の奥に見える高い建物の中に、教室やラウンジがあります。↓

撮影:しまうま

 ラウンジは、学生間の交流スペースです。ホワイトボードで図式を描いて課題に取り組むこともあれば、雑談しながらお昼ご飯を食べることもあります。↓

撮影:しまうま

 他にも、予備校のように机についたてのある静かな自習室、ミーティングに最適なガラス張りの小部屋、主に外国人留学生が使う礼拝用の小部屋、ロッカールーム、パソコンルームを、東大公共政策の学生は使うことができます。

 もちろん、東大生として全学共通の施設を使うこともできます。安田講堂下にある中央食堂、本郷書籍部、東大総合図書館、御殿下記念館のジムや体育館などです。また、学術論文にアクセスするシステムTREEも使えます。TREEには教科書にもアクセスできる場合があります。

(4)入試

評価項目

 東大公共政策大学院の入試では

・TOEFL iBTを用いた英語試験

・志願コースの筆記テスト(コロナ前)、エッセイ(コロナ禍)

・面接 

が行われます。

英語

 TOEFL iBTは、リーディング、リスニング、ライティング、スピーキングの4技能を評価する英語試験です。各技能ごとに30点が配点されていて、合計120点満点です。TOEFL iBTは何度も受けられるので、その中で一番成績が良かったスコアを提出できます。

 東大公共政策大学院は留学生が多く、授業が英語で行われることもあり、一定の英語力が求められます。実際、経済政策コースのミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学の必修3科目は英語でやります。そういったこともあり、合格者のTOEFL iBTの平均スコアは90点弱と高いです。TOEFL iBTとTOEICの換算表を確認すると、TOEIC950点の水準になります。(参考:入試結果・修了者進路

 ただし、私含めて学生の中には英語弱者で合格している人もいます。英語に自身のない方は他の2科目を頑張ってください!

エッセイ

 コロナ前は筆記試験が行われていました。コロナ以後は発表されたテーマについて数週間程度でエッセイを作成するという内容に変更になりました。今後テストかエッセイのどちらが採用されるのかはわかりません。科目はコースによって異なります。

 例えば、2023年度入試の問題は

【ミクロ経済学・マクロ経済学】現在実施されている、または実施が検討されている経済政策のなかで、その必要性が(1)外部性、(2)情報の非対称性、(3)財産権制度の不備、のいずれかの理 由によるものを 1 つ選び、どのような理由で政策が必要とされるのか、政策に はどのような効果が期待されるのか、を説明しなさい。

【行政法】最判令和 3 年 7 月 6 日民集 75 巻 7 号 3422 頁を行政法学の議論を踏まえて分 析・論評しなさい。

【国際政治】国際政治において、経済の相互依存がどのような影響を及ぼすのかについて、 理論的な観点を踏まえつつ、事例に基づいて論じなさい。

【国際法】現在または将来の日本にとってあなたが重要だと考える国際法に関わる問題を取り上 げ、あなたが重要だと考える理由を述べたうえで、当該問題を国際法(学)の観点から 分析・論評しなさい。

【政治学】あなたが関心を持つ現代の先進国の政治・行政問題を取り上げ、その問題に関 心を持った理由を述べた上で、その問題が生じる原因やメカニズムを政治学・ 行政学の知見に基づいて説明せよ。必要な場合は図表を含めてよい。

でした。(参考:東大公共政策大学院|過去の入試問題

面接

 面接は、3人の教授からのご質問にお答えしていくものです。

 面接ではエッセイについて色々突っ込まれます。読者の方々はエッセイの内容があっさりしていて拍子抜けされたかと思いますが、面接での質疑応答ではじめてエッセイが完成すると思ってしっかりと準備していってください。

 また「なぜ公共政策大学院を志望しているのか」「将来はどんなキャリアを歩みたいのか」「院ではどんな勉強をしたのか」といった志望理由について深掘りされます。

 過去の成績や経歴を見つつ「英語は大丈夫か」「学部時代に基礎となる科目をしっかり取っているのか」といった入学後に問題になりうる懸念点についても色々聞かれます。

 しっかりとどんな質問が来るのかを予想して、それに対する答えを考えるといいでしょう。

入試結果

 過去の入試結果は入試結果・修了者進路をご覧ください。2023年度入試の結果だけ見ると

・志願者:208

・口述試験対象者:126

・最終合格者:84(女性43、外国人23、東大出身25)

・法政策:出願者6、最終合格者3

・公共管理:出願者21、最終合格者7

・国際公共:出願者70、最終合格者29

・経済政策:出願者111、最終合格者45

・東大出身:出願者39、最終合格者25

・他大出身:出願者169、最終合格者59

となっています。

(5)進路

ファースト・キャリア

 東大公共政策大学院の進路としては、やはり官公庁が多いです。財務省、外務省、経済産業省などの中央省庁に行く方が毎年10〜20人程度いらっしゃいます。また、留学生も自国に帰って官庁に勤める方がいます。国内外官庁に勤める方は就職者全体の30%程度で、東大法学部と同じか少し低い水準です。

 民間就職先では、コンサルティング・ファームに進まれる方が多いです。先輩方はマッキンゼーやベインといった戦略コンサルから、アクセンチュアやデロイトといった総合コンサルも行っているようです。コンサルに就職される方は全体の20%弱です。

 各年度ごとに就職先の選択率を図示すると、下図になります。年度ごとの具体的な省庁名、個社名は入試結果・修了者進路から2クリックほどの深さにあるPDFに載っています。

参考:入試結果・修了者進路

就職活動

 公務員就活は公務員試験に受かり、官庁訪問を突破する必要があります。公務員試験は教養区分が秋、専門区分が春にあります。官庁訪問は夏にあります。代表的なスケジュールは、修士1年の冬から試験勉強をはじめ、2年春の公務員試験(専門区分、院卒)に合格し、夏の官庁訪問を突破して内定をもらうという流れです。

 ただし、官庁専願ですと、落ちた場合に無職になるのでリスクが高すぎます。民間就活にも一定の力を割くべきです。東大公共政策大学院の学生は、就活意識が比較的高く、修士1年の4月、5月の入学当初から少しずつ動き出し始めます。

 まず最初にあるイベントは、公共政策大学院経由の官庁サマーインターンシップの応募です。4月の終わりごろにプログラムの締め切りがあります。普通に申し込むよりも通りやすいので、ぜひ申し込みましょう。申請すれば1単位に認定されます。

 また、コンサル就活は、サマーインターンの申し込み締切が5月、6月にあるので考えている方は早めに動きましょう。コンサル就活のメリットは①早期内定がでるので、後半は行きたい官庁や企業対策に集中できること、②ケース対策が就活力を高めること、③年収、市場の成長性、スキルアップのしやすさから、コンサルは悪くない就職先であること、といったものが挙げられます。

方法

 論点は「以上を踏まえて、公共政策大学院に進学すべきか」です。

 一般に重要だと思われる論点を取り上げて、考えてみます。

結果

(1)重要項目

 このブログでは、以下の項目で東大公共政策大学院についてご説明しました。

①入口は?(入試)

②中身は?(理念)

③中身は?(勉強)

④中身は?(生活)

⑤出口は?(進路)

 「進学すべきか?」という問いで最も重要になってくるのが、③勉強、⑤進路かと思います。

(2)評価

勉強

 東大公共政策大学院は「時代の要請に応える政策実務家を育成すること」という目的を実現するために、理論と実践のバランスが取れたカリキュラムを作っています。

 「社会のために」を実務家の立場で実現したいと考える方が大学院で勉強したい場合は、最適な選択肢だと思います。

 「政策に興味がない」という方には向きません。また、「研究者の道も考えている」という方も向かないかもしれません。あくまで実務家養成のためのカリキュラムだからです。特に経済学者の道を考えられている方は「東大公共政策大学院所属で、経研のコアを取っている現状からの情報提供」も踏まえて、進学を検討するとよいです。

進路

 東大公共政策大学院は「時代の要請に応える政策実務家を育成すること」を目的にしていますが、「政策実務家になる」のであれば東大公共政策大学院に行く必要は全くありません。

 中央官庁は学部卒の採用が主体です。霞ヶ関に行きたければ、学部時代の就活を頑張るのが近道です。また、民間就職先として人気のコンサルも、学部卒から行くことができます。コンサルも同様に学部時代の就活を頑張るのが近道です。

 ただ、人生では「ファースト・キャリアにどこに行くか」も大事ですが、あくまで入り口です。本番は「ファースト・キャリアでどんな仕事をするか」になります。そこでは東大公共政策大学院で培った能力、経験、人脈が役に立つことはある、と期待しています。

考察

(1)結論

 「社会のために」を実務家の立場で実現したいと考える方で大学院でも学びたいと考えているのでしたら、東大公共政策大学院(GraSPP)はおすすめです。

 私個人は「社会の全体最適とは何か」といった問いに関心があり、経済学を実務に活かすことを念頭に学びたかったので、東大公共政策大学院に期待して入学しました。この目的は達成されつつあり、入学してよかったと考えています。

(2)妥当性評価

前提評価

 入り口、中身、出口でモレなく説明できた点がGoodです。

 アンケートを取っておらず、個人の見解がかなり混じっていて、その点がBadです。

方法評価

 重要項目を絞り込んで議論したのがGoodです。

 重要な評価項目の選び方が不透明な点がBadです。

結論評価

 直感的にはGoodです。

 直接就職する場合、他大学院との比較が足りていない点がBadです。

(3)意義

 東大公共政策大学院の進学を検討している人にとって、いい情報の整理になったかなとは思います。

付録:お役立ち情報

(1)大学院のWEBサイト

・公式HP→東大公共政策大学院

・過去の入試問題→過去の入試問題

・入試説明会の資料→大学院概要

・入試結果や進路情報→入試結果・修了者進路

(2)学生自治会

・学生自治会のInstagram→GraSPP Student Council

(3)お役立ちブログ

しまうま総研:Rでデータ分析入門(経済政策コース向け)

I’m Ko!:東大公共政策大学院所属で、経研のコアを取っている現状からの情報提供

Carpe Diem 今日を掴め:今年年以降(2017年)東大公共政策大学院を受験する方へ

埋木帖:公共政策大学院という選択

smirnoffのブログ:東京学公共政策大学院の特徴と受験について

(4)宣伝

 私が運営に関わっている活動の宣伝をを2つさせてください。

 一つは、小説家・真山仁先生と社会課題について議論する自主ゼミ真山ゼミです。

 もう一つは、昨年度は東大生1100人の就活を支援したNPO法人エンカレッジ東大支部です。

 ぜひ来てくださいネ!(→連絡

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