8.一般均衡の存在証明【一般均衡】

一般均衡理論

 「市場均衡が社会にとってよい」というのが経済学の結論ですが、果たしてすべての市場が均衡することはありえるのでしょうか?

議論すべきことは

  1. 市場均衡は存在するのか
  2. 市場均衡に自然に落ち着く調整メカニズムはあるのか

ですが、ここでは前者を議論します。

 

1、方針

 まずですが、今回証明したいことは

  • 命題:n財の需要と供給が同時に一致する価格体系が存在する

です。

 これを証明するために、大まかに次の手順を踏みます。

 まず

  • 需給ギャップに応じて価格調整されると仮定

します。

 次に、位相数学の不動点定理より

  • 価格調整しても価格が変わらない点(不動点)が必ず存在すること

を指摘します。

 最後に、

  • 実はこの不動点が市場均衡点であること

を指摘します。

 必ず存在する点が市場均衡ですから、市場均衡は必ず存在するという理屈になります。

2、準備

 実際に議論を進める前に、もう少し立場を詳しく見ていきましょう。

(1)市場均衡とは何か?

 市場均衡とは、普通は需要供給が一致していることです。

 例えば、1財に限ってみれば、次のように需要曲線供給曲線で考えることができます。

 市場均衡点は、黒色の交点です。

 市場価格によって、生産と消費が一致しています。

 ただ、今回は上に価格0で超過供給している自由財も、市場均衡とみなします。

 例えば、空気はどれだけ人が吸ってもなくなりません。

 超過供給が起きていて、値段はついていません。

 まとめますと

  • 需要と供給が一致している、または、超過供給で価格が0

をここでの市場均衡と定義します。

(2)超過需要関数

 需要と供給をいちいち比較するのは面倒です。

 だから、超過需要関数と一括りにします。

 超過需要関数Z(p)とは、

  • 価格pが変化すると、超過需要z(=需要ー供給)が変化することを意味する関数

です。

  • 超過需要のとき、z(p)>0
  • 需給均衡のとき、z(p)=0
  • 超過供給のとき、z(p)<0

となります。

(3)ワルラス法則

 超過需要関数については、いくつかのことが明らかになっています。

 一つは、ワルラス法則です。

 これは全ての財の超過需要と超過供給を足すと、必ず0になるという法則です。

 詳しくは

をご覧ください。

(4)超過需要関数のゼロ次同次性

 また、超過需要関数に影響を及ぼすのは、絶対価格ではなく、相対価格ということもわかっています。

 すべての財の価格がt倍になっても、需給ギャップは変わりません。

 これを超過需要関数のゼロ次同次性といいます。

(5)超過需要関数に関する仮定

 超過需要関数は連続性をもつと仮定します。

 連続性とはpを滑らかに変化させたとき、zも滑らかに変わっていく性質です。

 不連続な関数とは、例えば次のような関数です。

 この仮定は次の不動点定理を使うために導入されます。

(5)ブラウアーの不動点定理

 次に出てくるのが、位相数学のブラウアーの不動点定理です。

  • 集合Sから集合Sへの連続関数f(x*)には、f(x*)=x*となる不動点が必ず存在する

という定理です。

「なんのこっちゃ」と思われた方、ご安心ください。

 定理の内容自体は簡単です。

  • 不動点とは、関数にx*を代入したら、答えがx*になる点

また、

  • 集合Sから集合Sへの関数とは、代入するのはSの範囲で、出てくる答えもSの範囲内にある関数

です。

 n変数関数において不動点定理は成り立ちます。(証明は専門書をお読みください)

 1変数関数については下図のように理解することができます。

 

3、不動点についての議論

(1)価格体系の表現

 超過需要関数のゼロ次同次性をもつので、相対価格が意味を持ちます。

 そこで、後々の計算をしやすくするために、価格体系を下のように考えます。

(2)価格調整のモデル

 ここで価格調整の関数を考えます。

 下図のようにもともとの価格体系を入力すると、新しい価格体系が出力される価格体系です。

 関数内では、2つの処理がなされます。

 一つは、超過需要なら価格を増やし、超過供給なら価格を減らすという操作です。

 もう一つは、関数の値が集合Sになるように調整することです。

 で、実際のところ、どのように処理するのかというと、つぎのように考えます。

 まずは価格調整の一段階目です。

 max {A,B}はAとBのうち大きい方という意味ですので、❶は

  • 超過需要(プラス)のとき、超過需要分を元々の価格にプラス
  • 超過供給(マイナス)のとき、元々の価格はそのまま

という操作になります。

 ただ、このままでは全体の合計が1を超えてしまいますから、❷で集合Sに戻してやります

 超過需要のとき、価格を変えない理由は、pnがマイナスになる可能性をなくすためです。

 また、これが問題にならないのは、超過需要で価格が増える財があると、超過供給の財の相対価格が自然と下がっていくからです。

(3)不動点の存在

 ところで、不動点定理は

  • 集合Sから集合Sへの連続関数f(x*)には、f(x*)=x*となる不動点が必ず存在する

でした。

 集合Sから集合Sについては、操作❷で対応済みです。

 連続というところは少し不安ですが、下図によれば

  • p+max {z(p),0}

も連続関数ですので、これらを四則演算したf(p)も連続関数です。

 したがって、次のように言えます。

4、市場均衡の議論

(1)つぎの課題

 しかし、価格調整で価格が変化しないとしても、

  • 需要と供給が均衡している
  • 自由財(超過供給、価格0)

とは限りません。

 そこで、もうすこし議論を進めます。

(2)ある財に関する不動点を詳しく見る

 

(3)計算上の工夫

(4)ワルラス法則による簡略化

(5)1〜N財の議論に拡張

(6)超過供給は自由財であるかについての大詰め