IS-LM分析の意義と批判

IS-LM分析

 ケインズ経済学の解釈の一つであるIS-LM分析を意義と批判の両面から評価します。

 具体的には

  • ケインズ以前の経済学の問題点
  • ケインズの『一般理論』の意義
  • IS-LMモデルの意義

に触れたあとで、

  • 実証
  • 理論

からの批判について解説します。

1、IS-LM分析の意義

(1)ケインズ以前 〜失業は発生しない〜

 20世紀初頭、経済学はマーシャルのベストセラー『経済学原理(1890年)』によって現在も使われる需要曲線供給曲線という概念を開発しました。

 需要曲線と供給曲線の重要な示唆は、価格が需要と供給を一致させるシステムであること、市場均衡が社会的に最も望ましい状態であることです。

 これは労働市場に関しても同じです。

 できるだけ安く雇いたい企業は労働需要曲線を、できるだけ高く雇われたい労働供給曲線を描きます。

 労働の価格である賃金が伸縮的に変化することで、市場均衡に達します。

 このとき「この市場賃金なら働きたい。なのに、雇ってくれる人がいない」という非自発的失業者は生まれません※1。

 したがって、市場に任せておけば失業問題はいずれ解消されることになります。

 これがケインズ以前の経済学(新古典派経済学)の基本的な考え方でした。

 1929年、世界恐慌が発生します。

 世界恐慌によりアメリカ・ヨーロッパの失業率は25%近くに達し、長期に渡る深刻な不況が訪れます。

 失業問題は発生しないとする経済学の矛盾が明らかになったのです。

※1「この市場賃金なら割りに合わないので、働かない」という自発的失業者は発生します。

(2)ケインズ経済学 〜失業と経済政策の理論化〜

 ケインズは『雇用・利子および貨幣の一般理論(1936年)』により、賃金の下方硬直性という概念を提唱し、失業問題を理論化しました。

 これは「企業は従業員の給与を簡単には下げられないので、賃下げではなくクビ切りで人件費を調整する。このために、失業が発生する。」という理屈でした。

 さらに、ケインズは、失業が発生している状態で、財市場・貨幣市場が均衡する可能性を示しました。

 介入がなければ永遠に失業問題が解決しないことを意味します。

 さらに議論を進め、適切な介入が財政出動・金融緩和による需要創出であることを明らかにしました。

 問題の全体像の解明と、処方箋の提示がセットになったケインズの考え方は、広く受け入れられ、政府の経済政策の理論的背景となりました。

(3)IS -LM分析の意義 〜わかりやすく〜

 ただし、『一般理論(1936年)』は記述型の経済書であり、理解しづらいという問題点を抱えていました。

 具体的にケインズ経済学が経済学者に広く理解されたのは、1937年に発表されたヒックスIS-LMモデルの登場によってでした。

 20世紀後半に名を馳せた経済学者サミュエルソンによれば「難解なケインズの文章の中身が、経済学者の頭にやっとすんなり入るようになった」と言います。

 

2、批判

 ここからはIS-LM分析に対する批判について説明します。

(1)インフレについての批判と改良

 IS-LMモデルでは物価一定を仮定し、財市場と貨幣市場の均衡を議論します。

 このとき、インフレ率(物価上昇率)を含んだ議論をすることができません。

 したがって、失業とインフレ率の関係を表したフィリップス曲線※2を付け加えることで改良が加えられました。

 改良されたIS-LMモデルは1970年代初頭までマクロ経済学のモデルとして広く受け入れられました。

※2フィリップス曲線とは、失業率が上がるとインフレ率が下がり、失業率が下がるとインフレ率が上がることを表現したグラフです。

(2)実証面:1970年代のスタグフレーション

 しかし、1970年代になるとIS-LMモデルは実証面と理論面から批判を集めます。

 1960年代後期、フリードマンとフェルプスは経験的法則にしたがって経済政策がなされると、人々の期待が変化し、失業率が上がりインフレ率も上がると予測しました。

 そして、1970年代、アメリカにて「失業率が上がりインフレ率も上がる」というスタグフレーションが発生しました。

(3)理論面:ルーカス批判

 最後の一撃は、ルーカス批判によってなされました。

 1976年、ルーカスは個人の意思決定の総体としてのマクロ経済を捉えるべきと主張しました。

 これがマクロ経済のミクロ的基礎付けです。

 この実証面と理論面の批判を受けて、IS-LMモデルの信頼性が大きく揺らぐことになります。

3、おわりに

 IS-LMモデルは、数十の行動原理を統一的に理解する点で優れた理論です。

 経済政策の波及経路を意義を理解するのに役に立ちます。

 このために、学部レベルの経済学・政策現場では今でも利用されています。

  IS-LMモデルは1970年代に信頼性を大きく失いましたが、これは経済学者が無能であったのではなく複雑な社会の理論化がいかに難しいことかを物語っているように思います。