IS-LM分析/ 景気と経済政策を理解する

 経済政策を理解する上で最も基本になるIS-LM分析を解説します。

 IS-LM分析は、実体経済と金融経済の双方に目を配りつつ、ケインズの有効需要の原理を取り入れ、経済の豊かさがどのように決まるのかを論じるモデルです。最終的に、IS-LM分析は、景気を左右する需要の決定メカニズムについての洞察を与えるとともに、財政政策・金融政策の必要性を説得力をもって力説します。

 この記事は、初学者がこのページを読むだけでIS-LM分析を理解できるように書きました。ぜひご一読ください。

しまうま

東大生/ 欲しいものは大局観。目指すは全体最適。|経済学の考え方が好きです。

1、IS-LM分析の過去

 IS-LM分析は、ケインズ派と呼ばれる経済学者が使っていたモデルです。ケインズ派とは、近代経済学の双璧をなす古典派・ケインズ派のひとつです。両者の相違は、市場をどれほど信じ、政府介入を認めるか否かにあります。古典派は市場の力を信じ政府介入を避けよう一方で、ケインズ派は市場の力を全面的には信じず政府介入を肯定します。

参考:ケインズの業績と経歴

 さて、ケインズ派の誕生は、1929年の世界恐慌がきっかけです。世界恐慌はアメリカで失業率25%を記録した大不況で、第二次世界大戦の背景となった歴史の転換点です。

 当時、主流派であった古典派は市場の力(=神の見えざる手)を信じ、政府介入は悪手であると考えていました。一方で、ケインズは市場が大量失業を生んだ現実を見るに、新しい経済理論を考案しました。これが1936年の著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』です。これは市場は不安定であり、政府介入も時には必要であるという内容でした。ちなみに、この「一般」理論というタイトルには、特殊な状況において成立するのではなく、普遍的に成立する理論であるというケインズの自負が込められています。

 ただ、『一般理論』には問題がありました。イギリス知識人の著書だけあって難解だったのです。そのエッセンスを抽出したシンプルなモデルが必要とされていました。この流れで、1937年、ヒックスがIS-LM分析の原型を考案し、ケインズの理論をシンプルなグラフとして表現することに成功しました。こうしてケインズの主張は教師や学生に広く知れ渡り、のちに主流派となったのです。1937年の古い理論ではありますが、エコノミストではない我々がマクロ経済を考える上で、IS-LM分析は強力なフレームワークになります。

参考:ヒックスの業績と経歴

2、マクロ経済学の基礎

 IS-LM分析は決して突飛なアイデアではありません。基本的な経済学の理解にケインズの洞察をまぶしたものが、IS-LM分析です。まずはじめに、IS-LM分析の土台となるアイデアをまとめます。注目していただきたいのが、4点あります。

  • ①どの市場についてか?
  • ②需要とは?
  • ③供給とは?
  • ④需要と供給の調整方法は?

 IS-LM分析は、実体経済と金融経済について考えますが、それぞれ財市場貨幣市場に焦点を絞ります。それぞれ見ていきましょう。

(1)財市場

①財市場

 財市場は農産物・自動車・映画・医療などの財・サービスが取引される市場です。

②財市場の供給

 さて、財市場の供給とは、国内総生産GDPになります。

③財市場の需要

 一方で、財市場の需要とは、国内総支出GDEです。経済統計にある国内総支出の内訳をデフォルメしてやれば、

  • 需要=現在の満足のために支払う消費C+将来の収入のために支払う投資I+政府が支払う政府支出G

となります。

※外国はないと仮定しています。

④需給調整は数量調整 〜有効需要の原理〜

 財市場の需要と供給の均衡メカニズムは、通常の市場メカニズムを用いません。ケインズは「価格調整」が働かず、物価が変わらない場合を想定しました。つまり、古典派のいう「神の見えざる手」は機能しません。

 その代わりに導入されたのが「有効需要の原理」による「数量調整」です。有効需要の原理とは「需要に応じて供給が決まる」という原理で、「数量調整」とは企業が売れ残りを回避しようとして生産調整をするメカニズムです。

※物価は変動しないと仮定しています。

(2)貨幣市場

①貨幣市場

 貨幣市場とは、資産市場の一部です。資産市場では、利子のつかない貨幣と利子のつく債券が交換されます。IS -LM分析では貨幣にのみ注目して考えます。

②貨幣市場の供給

 貨幣市場にも需要と供給があります。貨幣供給(マネーサプライ)は、中央銀行が直接発行したマネタリーベースを基に、民間銀行による信用創造で数倍に膨れ上がり、形成されます。

 信用創造とは民間銀行が貨幣供給を担ってしまう仕組みです。例えば、銀行XがAさんから100万円を預かり、Bさんに80万円を貸したとき、AさんとBさんの保有する貨幣は180万円になります。このとき、銀行Xは80万円の貨幣を「信用創造」したことになります。この連鎖で、マネーサプライが決まります。

 中央銀行はマネタリーベースの調整を通じて、マネーサプライは決めます。これを金融政策といいます。

③貨幣市場の需要

 一方で、貨幣需要は、取引需要L1と資産需要L2の合計です。

 取引需要L1とは財市場での取引のために生まれる需要で、資産需要L2とは貨幣を資産として保有しておこうという需要です。

④貨幣市場の需給調整

 貨幣市場の需要と供給の均衡メカニズムは、利子率による調整です。貨幣供給は金融政策が変わらない限り一定ですが、貨幣需要は利子率に影響されます。ですので、貨幣市場は利子率が変化することで、需要と供給が均衡します。

※利子率とは? 〜流動性選好説〜

 ところで、利子率とは、なんでしょうか。もちろん、利子率とは、お金を貸した際に、元金に上乗せして返ってくる利子の割合です。100万円貸して、105万円返ってくるとき、利子率は5%です。逆に言えば、お金を貸さないことは利子率分損することになります。ですので、利子率は、貨幣を保有する際の機会費用とみなせます。

 さて、ここで賢い方は、「利子率がプラスなら、資産が増えない貨幣保有は非合理。つまり、資産需要は常にゼロにすべし」と考えるでしょう。ケインズはこれに対する返答を用意しています。ケインズによれば、貨幣の価値とは、いつでもどこでも取引ができる「流動性」にあります。これが流動性選好説とよばれる考え方です。したがって、債券に流動性がない以上、たとえ利子率がプラスでも一定の貨幣需要が生まれるのです。

3、IS曲線

(1)財市場の内実

 財市場について細かく見ていきましょう。財市場の需給は次のように表せます。

  • 供給Y=国内総生産GDP
  • 需要Y=消費C+投資I+政府支出G

 有効需要の原理により需要が供給を決めるので

  • GDP=消費C+投資I+政府支出G

となります。では、消費・投資・政府支出はどのように決まるのでしょうか?IS-LM分析は次のように考えます

  • 消費Cは、国民所得によって決まる
  • 投資Iは、利子率によって決まる
  • 政府支出Gは、財政政策によって決まる

 これからはそれぞれの要素がどのように財市場の需要と供給の均衡に関わっていくのか見ていきます。

(2)45度線分析

 財市場の均衡について考えます。

 ここで使われる手法が、45度線分析(ケインジアンの交差図)です。ノーベル経済学賞者でもあるサミュエルソンが考案した非常にシンプルな分析ツールです。

参考:サミュエルソンの業績と経歴

 まずは需要です。縦軸に需要、横軸に国民所得のグラフを考えます。消費は国民が豊かなら多くなり、国民が貧しければ少なくなると考えられます(=ケインズ型消費関数)。これに利子率で決まる投資と財政政策で決まる政府支出も加えると、次のように考えられます。

45度線分析の需要

 

 では、供給はどうでしょう。ところで、縦軸に供給(=GDP)、横軸に国民所得をとると、45度線のグラフが描けます。なぜなら、生産で儲けた額は最終的に誰かの懐に入りるため、全体としてみれば、GDPと国民所得は等しくなるからです。これを三面等価の原則と言います。

45度線分析の供給

 総需要と総供給のグラフを重ねて考えれば、有効需要の原理によって数量調整されるとは、どのようなことであるのが瞬時にわかります。超過需要は増産で、超過供給は減産で対応され、需給均衡に至ります。

45度線分析の均衡

(3)IS曲線は財市場の均衡を表す

 利子率の変化で、どのように財市場の均衡が変わるのか分析します。ここで、IS-LMのうち、「IS」曲線が導出されます。

 さて、利子率は投資を通じて財市場に影響を及ぼします。利子率が高ければ有望な案件にしか手を出さず投資は少なくなりますが、利子率が低ければ期待薄の案件にも手を出し投資は多くなると考えられます。

 つまり、利子率の上昇で、投資は減少します。これを、45度線分析にかけやると、需要が落ち込み、均衡国民所得が減少することがわかります。

 財市場を均衡させる利子率と国民所得の組み合わせをIS曲線といいます。この利子率が上がると、均衡国民所得が減少する関係を、グラフにすると、右下がりのIS曲線が導出できます。

IS曲線

 もうすこし踏み込んでみましょう。さきほどの45度分析を見ると、投資による需要落ち込みが、それ以上の国民所得の減少を生んでいることがわかります。これは投資が減ることで国民所得が減り、国民所得が減ることで消費が落ち込んだからです。45度線分析ではつぎのようにかけます。

 これを踏まえてIS曲線の中身をみてやると、下のようになるというわけです。

(4)財政政策

 後述します。

4、LM曲線

(1)貨幣市場の内実

 貨幣市場についても細かく見ていきましょう。財市場の需給は次のように表せます。

  • 供給=実質マネーサプライ
  • 需要=取引需要L1+資産需要L2

となります。では、実質マネーサプライ・取引需要・資産需要はどのように決まるのでしょうか?IS-LM分析では次のように考えます。

  • 実質マネーサプライは、金融政策によって決まる
  • 取引需要L1は、国民所得によって決まる
  • 資産需要L2は、利子率によって決まる

 次に、これからはそれぞれの要素がどのように貨幣市場の需要と供給の均衡に関わっていくのか見ていきます。

(2)貨幣の需要曲線・供給曲線

 貨幣市場の均衡について考えます。ここで使うのが、貨幣の需要曲線・供給曲線です。

 まず、貨幣需要についてです。縦軸に利子率、横軸に貨幣需要をとるグラフで考えましょう。

  • 取引需要L1

 取引需要は、国民所得に応じて決まります。所得が100万円で、使いたいお金が90万円なら、取引需要は90万になります。ここには利子率は介在しないと考えます。

  • 資産需要L2

 資産需要は、債券か貨幣のどちらを持つかというバランスで決まります。

 ここには2つの説明をしましょう。

  • 説明1:流動性選好説

 流動性選好説では、貨幣の流動性に価値を感じるという説です。

 このとき、利子率が高くなると、貨幣保有の機会費用が高くなるので、資産需要は減ります。

 一方で、利子率が低くなると、貨幣保有の機会費用が低くなるので、資産需要は増えます。

  • 説明2:債券との代替関係

 利子率についてよく見てみると、次のような関係が見られます。

  • 個別の債券では、「固定利子率」で収益を得られます
  • 市場全体の債券では、「市場利子率」で収益が得られるはずです
  • 貨幣の保有では、利子率はゼロです

 ですから、(市場)利子率が高くなると、固定利子率の魅力が低くなり、債券価格は低くなります。ここで、投機家が動きます。彼らは「割安になった個別の債券」を買って、「割高になるまで」保有するのです。つまり、貨幣→債券への転換が進み、貨幣の資産需要は小さくなります。

 一方で、(市場)利子率が低くなると、固定利子率の債券の魅力が高くなり、個別の債券価格は高くなります。投機家は「利確」をしようとしますので、「割高な債券」を売って、貨幣に替えます。債券→貨幣への転換が進み、貨幣の資産需要は大きくなります。

 ところで上の図では、利子率があるラインを超えて低くなると、貨幣の資産需要L2が無限大になっています。これは利子率の低すぎて、全ての資産を債券ではなく貨幣で保有する場合です。極端な話、利子率がマイナス10%のとき、お金を貸すと損をするので、全員が債権を貨幣に換えよう殺到します。この状況を「貨幣需要が無限大」とおおげさに表現しているわけです。

 貨幣供給は、中央銀行の発券と民間銀行の信用創造によって決定します。IS-LM分析では、貨幣供給は金融政策で管理することができると考えます。

 さて、国民所得が変わらないとすると、貨幣需要は利子率によって増減します。一方で、貨幣供給は金融政策で決まり、利子率によって増減しません。すると、上のように貨幣市場の需要供給曲線が描けます。

 新しく債券を発行しようとしている銀行や企業は、超過貨幣供給のときは利子率を下げたいと思います。一方で、超過貨幣市場のときは、たとえ利子率が高くても、お金を借りたいと思います。

 こうして、利子率の調整により、貨幣市場は需給曲線の交点で均衡します。

(3)LM曲線は貨幣市場の均衡を表す

 国民所得の変化で、どのように貨幣市場の均衡が変わるのか分析します。ここで、IS-LMのうち、「LM」曲線が導出されます。

 国民所得は取引需要L1を通じて貨幣市場に影響を及ぼします。国民所得が増えれば、取引のために貨幣が必要となり取引需要L1が増えます。

 つまり、国民所得の上昇で貨幣需要は増加します。これを、需要曲線・供給曲線で分析すると、均衡利子率が増加します。

 貨幣市場を均衡させる利子率と国民所得の組み合わせをLM曲線といいます。この国民所得が上がると、均衡国民所得が増加する関係を、グラフにすると、右上がりのLM曲線が導出できます。

LM曲線

 

 ところでLM曲線が部分的に水平になっています。利子率が低すぎると、貨幣需要が無限大になり、均衡しないためからです。

(4)金融政策

 後述します。

5、IS-LM分析の全体像

 財市場で国民所得が、貨幣市場で利子率が決まる一方で、国民所得は貨幣市場に、利子率は財市場に影響を与えます。

 したがって、財市場と貨幣市場が相互に影響しあって、マクロ経済を作り上げてわけです。

 因果関係を図にしてやると、下のようになります。

 まず、貨幣市場利子率が決まり、利子率が投資を決定します。そして、消費と投資と政府支出の合計である総需要が決まり、有効需要の原理にしたがって、財市場で国民所得を決定するというわけです。

 なんとも複雑な因果関係でしょう。ケインズの『一般理論』が難解と言われる理由も納得です。一読して上の事実関係を理解できる人は果たして何人いるでしょうか。

 しかし、IS-LM分析では均衡国民所得と均衡利子率をシンプルに導出することができます。財市場の均衡はIS曲線、貨幣市場の均衡はLM曲線で表せますから、双方の市場が均衡するのはIS曲線とLM曲線の交点であるとなるわけです。このようにして、国民所得(=国内総生産GDP)は決定します。

IS曲線、LM曲線

6、好景気と不景気

 とはいえ、IS-LM分析だけでは、好景気と不景気がわかりません。どのくらいの国民所得があれば、好景気なのでしょうか。難しいのは、国民所得は多ければ景気がよく、少なければ景気が悪いわけではない点です。たとえば、日本の国民所得は非常に大きいですが、だからといって日本経済は明るくありません。

 景気を考える上で重要になるのが、潜在的な力と発揮した力の差が小さければ良いというアイデアです。スポーツでは、潜在的な力を出し切れるとき、「調子がよい」と感じます。経済も同じです。

 働きたい人全員が働いて生み出せる潜在的な供給能力(完全雇用国民所得)が、潜在的な力です。一方で、現実の需要(均衡国民所得)は、発揮した力です。これらが近づけば近づくほど「好景気」となり、遠くなると「不景気」となります。

 IS-LM分析のグラフに補助線を引いて、考えましょう。完全雇用国民所得は利子率に影響されないので、垂直な線となります。これと、ISとLMの交点を比較すればいいのです。

 好景気の場合、均衡国民所得は、完全雇用国民所得に近づきます。このとき、労働力は十分に活用され、失業率は低くなります。

好景気 IS-LMモデル

 好景気の場合、均衡国民所得は、完全雇用国民所得から遠くなります。このとき、労働力は十分に活用されず、失業率は低くなります。下図では、大量失業が発生する場合を表しています。

失業 IS-LMモデル

7、経済政策

 では、不景気を脱し、好景気を実現するには、どのような経済政策を取るべきでしょうか。

 ケインズの処方箋は、財政政策と金融政策によって需要を刺激する「総需要管理政策」です。総需要=消費C+投資I+政府支出Gです。財政政策は政府支出Gを決定し、総需要に直接的な刺激を加えることができます。金融政策は利子率の管理を通じて、投資Iに影響を与え、総需要に間接的な刺激を加えることができます。IS-LM分析で詳しくみていきましょう。

8、IS曲線のシフト

(1)財政政策の有効性

 財政政策で、政府支出を増減させられます。政府支出を大きくすることを拡張財政、政府支出を小さくすることを緊縮財政といいます。さて、利子率は変わらないまま、拡張財政により、総需要が増大したとします。これは下のように、国民所得の増大を生みます。

 すると、財市場の均衡は、利子率が変わらないまま、均衡国民所得が増大することになります。これはIS曲線の右シフトを意味します。拡張財政はIS曲線の右シフトです。

IS曲線の右シフト

 しかし、国民所得が増大すると、取引需要が増大し、利子率が上昇します。これが投資の減退である「クラウディング・アウト」を引き起こします。ただ、クラウディング・アウトを生みつつも、拡張財政は均衡国民所得を増大させ、好景気へ導きます。

(2)財政政策の副作用

 ここで、財政政策の副作用にも言及しておく必要があります。

  • クラウディング・アウト

 まず、上で述べた通り、拡張財政は投資の減退であるクラウディング・アウトを生みます。投資は将来の国力を建設する経済活動ですから、由々しき事態です。

  • 財政赤字の発生

 次に、拡張財政は財政赤字の温床になる可能性があります。IS-LM分析には、政府の予算制約が組み込まれていません。したがって、このままでは財政赤字拡大に歯止めをかける論理がありません。これはIS-LM分析とは別に考えるべき問題です。

9、LM曲線のシフト

(1)金融政策の有効性

 金融政策で、マネーサプライを増減させられます。マネーサプライを大きくすることを金融緩和、マネーサプライを小さくすることを金融引き締めといいます。さて、国民所得が変わらないまま、金融緩和により実質マネーサプライが増大したとします。すると、下のように均衡利子率を引き下げます。

 すると、貨幣市場の均衡は、国民所得が変わらないまま、均衡利子率が増大することになります。これはLM曲線の下シフトを意味します。金融緩和はLM曲線の下シフトです。

LM曲線の下シフト

 金融緩和は利子率の下落を引き起こし、これが投資に刺激を加え、国民所得を増大させます。これをIS-LM分析のグラフで考えると、下図のようになります。

(2)金融政策の弱さ

 金融政策は予算制約がないというメリットがあります。しかし、金融政策は「マネーサプライ→利子率→投資」という波及効果でもって総需要に影響を与えるため、力不足の場合が2つあることが知られています。

  • 流動性の罠

 第一は「マネーサプライ→利子率」がうまく機能しない「流動性の罠」の場合です。ケインズは貨幣の価値を流動性であると考えました。したがって、利子率がある一定のラインを下回ると、債券ではなく貨幣を保有しようとし、貨幣需要が無限大になります。このように、もともとの利子率が低すぎる場合、いくら金融緩和しても、利子率は変化しません。

 結果、投資は増えず、国民所得は増大しません。流動性の罠のとき、総需要管理政策としての金融政策は無力です。

流動性の罠 IS-LM曲線

  • 投資が利子非弾力な場合

 第二は「利子率→投資」がうまく機能しない「投資が利子非弾力」の場合です。有望な投資案件があまりない場合、利子率が低くなっても投資は低調に終わります。ここで、金融緩和を行い利子率を引き下げても総需要は増えないというわけです。この極端な場合が、有望な投資案件がゼロの場合で、利子率が高くても低くても投資は変わらず、IS曲線は垂直になります。このとき、いくらLM曲線がシフトしても、国民所得は変化しません。

投資が利子非弾力

10、ポリシー・ミックス

 財政政策と金融政策をみてきました。

  • 財政政策は、需要を作り出せる強力な経済政策ではあるものの、投資の減少というクラウディング・アウトを引き起こす
  • 金融政策は、財政赤字やクラウディング・アウトは引き起こさないものの、波及的な効果を狙っており強力さにかける

という特徴があります。

 そこで、この両者を組み合わせた財政金融政策が考えられます。拡張財政金融緩和のセットです。

 下図がクラウディング・アウトを打ち消す形で、発動された財政金融政策の例です。このようにして総需要管理政策を実行して、均衡国民所得を完全雇用国民所得に近づけてやることで、不景気を脱却して好景気をもたらすことができます。

 IS-LM分析の全体像を使って、財政金融政策を位置付けると次のようになります。

11、マンデル=フレミング・モデル

 IS-LM分析を開放経済に拡張したのが、マンデル=フレミング・モデルです。為替システムによって財政政策と金融政策のどちらが有効かを議論することができます。

12、AD-ASモデル

 IS-LM分析では物価Pは変化しないと考えましたが、物価変動も考えるのがAD-ASモデルです。総需要管理政策によって、物価変動が生まれる状況を議論することができます。

13、IS-LM分析の意義

 IS-LM分析は、経済学部のコア科目「マクロ経済学」で、短期的なマクロ経済を描くモデルとして登場します。IS-LM分析は、消費・投資・政府支出・貨幣・利子率などの複雑な相互関係に関する考察を深めながらも、最終的にはIS曲線とLM曲線としてシンプルにまとめあげます。さらに、財政政策はIS曲線のシフト、金融政策はLM曲線のシフトと表現でき、政策的な示唆も容易に引き出せます。この複雑性を包み込むシンプルさと実用性により、IS-LM分析は「教室で使うツール」として最も著名といっても過言ではありません。経済政策にも大きな影響を与え、IS-LM分析にフィリップス曲線を加えたモデルで、政策運営がなされていました。

※フィリップス曲線とは「物価上昇率が高いとき、失業率も高い。物価上昇率が低いとき、失業率も低い」という関係性を表したグラフです。

フィリップス曲線

14、IS-LM分析の欠点

 と、ここまで、IS-LM分析を解説してきたわけですが、ここで残念なお知らせです。IS-LM分析は1937年に発表されたモデルだけあって、少々、古いモデルとなっています。特に、大きく3つの問題点に直面し、近年の研究動向からはずれています。

 1つ目の問題点は、供給サイドが無視されている点です。これは、オイルショック時にアメリカでおきたスタグフレーションを説明できなかった際に、露呈しました。スタグフレーションとは、高い物価上昇と高い失業率が併存する状態で、フィリップス曲線と矛盾します。スタグフレーションの原因は、需要側ではなく、オイルショックによる原油価格の高騰という供給側にありました。

 2つ目の問題点は、ミクロ的基礎付けができていない点です。ミクロ的基礎付けとは、マクロな社会をそのまま見るのではなく、一人一人のミクロな視点に立って社会を考えようという経済学の考え方です。これはルーカス批判により注目されるようになりました。ルーカス批判とは「政策が変わる前に起きていたことが次もまた起こると考えてはいけない。なぜなら、人は新しく期待を形成し、行動を変えるからである」というものです。ルーカス批判を克服するには、ミクロ的基礎付けの発想が不可欠です。

 3つ目の問題点は、時間が無視されている点です。IS-LM分析では、財市場と貨幣市場が同時均衡する状況を考えますが、その調整にかかる時間差は考慮されていません。これを静学的分析といいます。しかし、本来は、時間の経過とともにマクロ経済状況が変化していく動学的分析をするべきです。

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