1. 租税貨幣論/ おカネとはなにか?【現代貨幣理論】

 現代貨幣理論(Modern Monetary Theory, 略:MMT)は、その名の通り、「おカネとは何か?」から始まる理論です。

 この記事では、今までの「おカネ」に関する議論を振り返るとともに、現代貨幣理論MMTの貨幣観を見ていきます。

 最終的にここから財政赤字が問題ない理由が導出されることになります。

1、貨幣はなぜ流通するのか?

 おカネにかかわる最重要の疑問は、「貨幣とはなにか?なぜ流通するのか?」という問いです。

 例えば、日本円はどうして使われるのでしょうか?

 私が「しまうま貨幣」を発行したとしても、誰も使う人はいないでしょう。

 この差はどうして生まれるのでしょうか?

 現代貨幣理論では、この問いに明確に答えます。

2、主流派経済学の貨幣観

 現代貨幣理論の前に、他の立場の貨幣観を整理しましょう。

主流派経済学の貨幣観

 まず、ミクロ経済学(新古典派)での考え方です。

 ちなみに、経済学が数学まみれになっているのは、この学派のせいです。

 いわゆる主流派経済学の理論的な基盤になっています。

 この学派は、古典派の2分法という立場をとります。

 「相対価格が実物経済に影響を及ぼし、名目価格は実物経済に影響を及ぼさない」というものです。

 これは、例えば、つぎのような意味です。

  • 『みかんは、りんごの何倍の価格か』という相対価格が重要
  • 『みかん10円、りんご30円』か『みかん100円、りんご300円』の名目価格は重要じゃない
  • なぜなら、どちらも『りんご1個』と『みかん3個』が交換可能だから

 経済学部でミクロ経済学を習った人なら、予算制約線の傾き(=相対価格)で最適消費が決まったといえば、わかりやすいでしょう。

主流派経済学の貨幣観の問題点

 ただ、これには明確な問題点があります。

 ミクロ経済学は「貨幣がみんなに使われていること」を前提に議論しています。

 つまり、もっぱら日本円の使い方を議論しているのにすぎません。

 これでは「なぜ日本円が貨幣であるのか」という疑問に答えられません。

3、経済学の教科書によくある貨幣観

 主流派経済学の理論からは「貨幣の本質」について議論できません。

 ですから、別個に貨幣論を立ち上げる必要があります。

商品貨幣説

 ここでよく取り上げられるのは、商品貨幣説です。

 物々交換の中で、皆が価値をもつと思うモノが貨幣となったという考え方です。

 アダム=スミスからマルクス、最近では世界で最も使われている教科書『マンキュー経済学』でも採用されています。

もし貨幣がなかったら

 もし貨幣がなければ、人は物々交換しなくてはいけません。

 この結果、経済はとても制限されてしまいます。

 なぜなら、交換する人がお互いに欲しいものをもっている「欲望の二重の一致」が必要だからです。

 例えば、お米が欲しい数学教師は、数学を教えて欲しいお米農家を探さなくてはいけません。

 探しているうちに数学教師は飢え死にするかもしれません。

 貨幣がなければ、同じ状況が社会のどこでも生まれます。

もし貨幣があったら

 けれども、交換機能をもつ貨幣があれば、解決します。

 貨幣の特徴は、一般受容性です。

 誰もが欲しがる価値尺度財です。

 数学教師はお金を払えば、たとえ数学が嫌いなお米農家からでもお米をもらえます。

 この結果、価値の生成と分配がスムーズにできるようになるのです。

 すると、人は生きるために仕事するのではなく、好きなことや得意なことを仕事にすることができます。

 音楽が得意な人は音楽を、数学が得意な人はロケットエンジニアを、人を救いたい人は医者をすることができます。

 こうすると、社会のいたるところで多種多様な価値が生成されて、社会が豊かになります。

 これが貨幣経済の恩恵です。

どんな貨幣がよいか?

 すると、貨幣としては交換しやすいものがいいとなります。

 分割しても価値が変わらず、長期保存しても変質しないモノが最適です。

 この点で金は適切です。

 ですので、昔の日本円は金によって価値づけられていました。

 アメリカドルが一定量の金と交換でき、日本円は固定相場でドルとの交換比率が決まっていたのです。

商品貨幣説の問題

 ただ、これには大きな問題点があります。

 1971年のニクソンショックで金ドルの兌換停止が宣言され、1973年に日本は変動相場制に移行しました。

 現在の円は、金との兌換はされず、外国通貨にも支えられていません。

 つまり、円には内在する価値のよりどころがありません。

 円の価値は、「みんなが使っている」という外在する価値に帰着させざるをえません

 必然的に「みんなが円に価値を認めなくなる」ということになれば、円の価値はゼロになります。

 この過程で発生するハイパーインフレーションが、市場経済の水面下に常に潜んでいる危機となります。

 経済学者の岩井克人先生は次のように述べています。

だれもが受け入れてくれるとひとびとが信じている貨幣とは、それ自体は頼るべきなんの価値も内在させていないモノの数にも入らないものである。それをだれもが受け入れてくれるのは、たんにだれもがそれを未来永劫にわたって受け入れてくれるという『予想の無限の連鎖』があるからにすぎ ない。(中略)それでは、市場にとって真の危機とは何なのだろうか?それは貨幣を貨幣として支えている『予想の無限の連鎖』そのものが崩壊してしまうことである。そして、それは『ハイパー・インフレーション』とよばれる事態にほかならない。

岩井克人『二十一世紀の資本主義論』ちくま学芸文庫

 つまり、商品貨幣説によれば、現在の円は本質的には不安定だが、みんなが価値があるように騙し合っているので見た目上は安定しているにすぎないとしてこれを捉えます。

 さて、あなたはこの説明で納得しますか?

 1970年代から今に至るまで日本ではハイパーインフレーションは起きていません。

 これを「本来は崩壊していてもおかしくない状態」として説明してよいのでしょうか?

 前置きが長くなりましたが、ここで現代貨幣論が登場します。

4、租税貨幣論 Taxes drive money.

租税貨幣論

 現代貨幣論は、円・ドル・ユーロがハイパーインフレーションにならない理由を明確に説明します。

 その答えは「税が貨幣を価値づける」というシンプルなものです。

 これを租税貨幣論といいます。

なぜ税が貨幣に価値を与えるのか

 すべての人はある権力機関の統治下で暮らしてます。

 かつて、ベンジャミン・フランクリンは「死と税からは逃れられない」といいましたが、まさにその通りです。

 日本の住民は、日本にいるだけで消費税・所得税・法人税を強制的に徴収されています。

 きちんと払っていれば、その統治下で生活することが許されます。

 脱税すると、大きな罰が加えられます。

 つまり、税は、ある権力機関の統治下で暮らす金銭的価値です。

 日本円での税金支払いを強制されている限り、日本人にとって円に価値があるのは必然です。

 統治権力をもった日本政府が租税に利用する限りにおいて、日本円の価値はゼロではないのです。

 租税が貨幣に価値を与えるのです。

 これが租税貨幣論です。

ジャイアン=ドル経済圏

 すると、どうしたらある貨幣を流通させられるか?という思考実験をすることができます。

 「ドラえもん」というアニメをご存知でしょうか?

 ジャイアン=ドルという貨幣を作ってみましょう。

 ここで3人の登場人物を想定します。

  • ジャイアン:暴力少年
  • のび太:弱虫
  • スネ夫:金持ち

 ジャイアンは暴力的で、騒音リサイタルに人を動員する力をもっています。

 現代貨幣理論にしたがえば、「毎週10ジャイアン=ドルをオレ様に払わないとぶん殴る」といえば、ジャイアン=ドルには価値が生まれ、貨幣として成立する土台ができるというわけです。

 もしスネ夫がジャイアンに言って「ねえねえ、僕のラジコンをあげるから、300ジャイアン=ドルをちょうだい」と言ったらどうでしょう。

 きっとのび太は、スネ夫の部屋掃除などをして、10ジャイアン=ドルを稼ごうとするでしょう。

 こうして、ジャイアン=ドル経済圏が成立します。

現実での具体例

 荒唐無稽に思われるかもしれませんが、かつて南アフリカ植民地で同じことが行われました。

 貨幣のない現地で貨幣を流通させるために、強制的に小屋税を創設したのです。

 こうして、現地で貨幣経済が広がっていきました。

一般性の確認

 さて、ここで世の中で貨幣と言われているものを想定し、一般性があるかを確認します。

 日本円、アメリカドル、ユーロ、中国元などが思いつくでしょう。

 これらの貨幣はすべて政府が租税に用いています。

 したがって、やはり租税貨幣論は確からしいです。

ビットコインについて

 なお、この観点からは租税のないビットコインは貨幣とはいえません。

 たしかにブロックチェーン技術により改竄ができないため、価値保存機能は高いです。

 それは金(ゴールド)も同じですが、金も貨幣ではありません。

 現代貨幣理論では、ビットコインも金と同じ単なる消費財にすぎないと考えます。

5、財政への示唆

 租税貨幣論は、「おカネとは何か?」という貨幣論でした。

 ただ、「租税が貨幣を価値づける」という結論を踏まえると、税金論とも言えます。

 「税金は貨幣に価値を与えるために必要」という税金論です。

 一方で、従来の税金論は「税金は財政政策の財源のために必要」でした。

 いまのところ、2つの説が併存していますが、どちらか一方が間違っていたりするのでしょうか?

 現代貨幣理論は、「財源としての税金」を間違いとみなします。

 ここから、「長期の継続な財政赤字は可能である」という現代貨幣理論の結論が導かれます。

 これは別記事で解説します。

現代貨幣理論
↓SNS共有はこちらから↓
しまうま

<自己紹介>
 万人の共通言語となる世界観を追い求めて、ブログを執筆しています。
 
<経済学について>
【可能性】万人にとってよい社会を構想する共通言語になりうる
【長所1】個別的な議論を排し、統一的に説明する
【長所2】ゼロかイチかの極論を排し、最適点を導く
【長所3】独善的あるいは自傷的な社会通念を排し、価値観や能力の多様性を重視する
【短所】体系的な知識が必要であり、難しい

交流スペース(送信or改行で投稿)
しまうま
しまうまだよ
まれびと2008
わかりやすいです!
まれびと2030
<minishock>
まれびと2030
<zzz>
まれびと2030
ねむい
まれびと2030
( ・ิω・ิ)
まれびと2030
おーい
まれびと2030
おおおおおーーーいいい
まれびと2030
授業ねむい
しまうま
2008さんありがとうございます!
しまうま
2030さん、は〜い笑
まれびと3295
こんにちは^ー^
まれびと3498
やっはろー
しまうま
3295さん、3498さん、こんにちは〜
まれびと5147
めっちゃ分かりやすい
まれびと5147
大学の先生より分かりやすい
しまうま
5147さん、ありがとうございます!ウレシイ!どちらの記事でしょうか?
しまうま
みなさまもぜひコメント残していってください
まれびと9305
正の外部性を内部化する為の補助金は、何故私的最適均衡点でなく社会最適均衡点に合わせて出されるのですか?補助金で外部経済が内部化されるのはわかりますが、初めにあった死荷重はどうなった?外部経済・死荷重にも重ならない分の補助金(右端の三角形)はどうなるんです?ご教授下さい…
しまうま
9305さん、ご質問ありがとうございます。ご質問3点は、正の外部性のページにある図4〜図8を順番に見ていただければ解決すると思います。1点目は図4〜図8、2点目は図4・図5・図7、3点目は図4・図7が対応しています。
まれびと4054
賃金に所得税が課されると労働時間はどうなるでしょうか?
しまうま
4054さん、コメントありがとうございます。結論からいえば、「場合による」が答えになります。合理的な労働者目線で、所得税課税は賃下げと同義です。単純にみれば、労働のインセンティブが減るので、労働時間が減ります※1。これがスタンダードな結論です。しかし、無差別曲線理論では、賃下げで労働時間が増える合理的な行動の存在を予想しています※2。労働曲線の後方屈曲性という現象です。例えば、時給5000円で月8時間家庭教師する東大生が、国に時給当たり所得税3000円を徴収されたら、生活水準を維持するために労働時間を増やすでしょう。もともと月4万円のバイト収入があったのに課税で1.6万円になったのでは、デート回数を減らすことになるのだから仕方ありません。これは所得税課税で労働時間が伸びる例です。他の
しまうま
賃金と労働時間に関する興味深い例(こちらは所得税とは関係ありませんが...)にはニューヨークのタクシー運転手の例があります。彼らは時給が上がると、労働時間を減らすらしいのです。面白いですよね。なお、※に対応する当ブログ記事は※1→「https://info-zebra.com/koyo-kettei/」、※2→「https://info-zebra.com/roudo-kyokyu/」です。
しまうま
みなさまもぜひコメント残していってください。近況とか聞きたいです
まれびと14623
おはよー
しまうま
14623さん、おはようございます!
まれびと16226
負の外部性の記事で、常体と敬体がごっちゃになっています。
しまうま
16226さん、ご指摘ありがとうございます。修正しました。
Customize
しまうま経済学研究所
タイトルとURLをコピーしました