人をどうやる気にさせるか?【行動経済学の視点】

行動経済学

 人をどうやる気にさせればいいでしょうか?

 やっぱり、お金でしょうか?

 それとも、ビジョンでしょうか?

 人をやる気にさせるモノをインセンティブといいます。

 そして、インセンティブについて考えるのが、経済学です。

 その点で「やる気」とは経済学の中心的な問いのひとつですが、近年、大きな論争になっています。

 行動経済学の登場です。

 従来の経済学は合理的な人間像(ホモ・エコノミクス)を前提にしていましたが、行動経済学は限界合理性を主張しています。

 では、具体的にはどのような対立が発生しているのでしょうか?

 心理学の分野から提供されたモチベーションの類型「外発的モチベーション」と「内発的モチベーション」に注目して考えます。

1、従来の経済学の賃金

(1)労働と賃金

 経済学では、何かしらの価値を作り出す活動を労働と言います。

 自動車を作る工場で働くこと、食事を提供するファストフード店で働くこと、顧客の法律的な問題を解決することは、まさに労働です。

 従来の経済学では、労働に対してはそれに見合った賃金が支払われるものと考えました。

 自動車工場の工員、ファストフードのお姉さん、弁護士はやはり賃金をもらっています。

 なぜ賃金は支払われるのでしょうか?

 それは「有益な活動をしたい経営者が、そんなに楽しくない仕事をどうやって赤の他人にさせるか?」という問題の解決策であるからです。

 例えば、街のゴミ問題を解決したいと役所が考えたとしましょう。

 時給0円のとき、ボランティアが駅前の掃除をすることはできます、月に1回程度なら。けれども、毎日膨大な量のゴミが生まれます。

 本質的な解決のためには、ゴミ収集車を手配し、ゴミ処理工場の人員を集める必要があります。

 ここでは、報酬として賃金を与えることは必要不可欠です。

(2)合理的な人間観 〜ホモ・エコノミクス〜

 従来の経済学は、この一般的な原理に基づいて理論を構築してきました。

 具体的には「報酬を増やせば、仕事をしてくれる人が増える」などです。

 これらは「合理的な人間観(ホモ・エコノミクス)」と呼ばれるもので、経済学の核になる部分です。

2、行動経済学の内発的モチベーション

(1)行動経済学の批判

 行動経済学者は「合理的な人間観」を批判します。

「確かに賃金は強力なインセンティブではあるが、それだけではない。例えば、やりがいは、モチベーションに大きな影響を与える」

 確かにそうです。

(2)モチベーションの種類「内発的」「外発的」

 モチベーションの種類について考えましょう。

 モチベーションは、外から与えられる報酬(外発的モチベーション)、内から湧き出るやる気(内発的モチベーション)に分けることができます。

 外発的モチベーションは、個人の外部に存在するインセンティブによって刺激されます。

 賃金は強力なインセンティブです。

 他には暴力による脅し・他者による承認もこの中に入ります。

 一方で、内発的モチベーションは、個人の内部の目標や姿勢によって喚起されます。

 仕事の楽しさ、社会貢献の気持ちなどが、これに該当します。

 このように分類すると、従来の経済学は外発的モチベーションにのみ注目しており、内発的モチベーションについて考慮できていないことがわかります。

 従来の経済学の人間観は、人間行動の重要な側面を見逃しているのです。

(3)報酬の副作用 〜クラウディング・アウト〜

 さらに言えば、心理学では、報酬がやる気を逆に損なう場合があることが報告されています。

 これをクラウディング・アウト(押し退け効果)といいます。

 例えば、ゴミ拾いボランティアは無報酬が基本です。

 社会貢献のためにやる人は多いでしょう。

 ここで1時間ゴミ拾いしたら300円あげると言われたらどうでしょう。

 「1時間やって300円か、バイトした方がいいな」と、逆にやる気を無くす人がいると予想できます。

 もう一つ具体例を考えてみましょう。

 イスラエルの保育園で実際に行われた面白い実験があります。

 この保育園は、閉園時刻を過ぎても親が迎えに来ないことに悩んでいました。

 そこで、経済学者が罰金を導入するという介入実験を行いました。

 その結果、逆に遅刻する親が増えたのです。

 「申し訳ないから」という理由で早くきていた親が、「罰金を払えば遅刻してもいい」と考えるようになったからです。

3、内発的モチベーションの意味

(1)経済学論争上の意味

 従来の経済学では、賃金を増やすことで労働供給量が増えると考えていました。

 しかし、行動経済学では、賃金を増やすことで労働供給量が減る場合が指摘されました。

 これは、人間が報酬の増加を無視するという不合理な行動を取ることを意味しています。

 これは合理的な人間像に基づき議論を展開する従来の経済学者にとっては嫌な展開です。

(2)実社会での意味

 一方で、経営者や政策立案者にとっては朗報です。

 コストをかけずに、労働供給を増やす方策があることを意味するからです。

 その際には、「内発的モチベーションをどのように刺激するか?」が考えるヒントになるでしょう。

 内発的モチベーションには次のようなモノがあります。

 ぜひ参考にしてみてください。

  • 成長したい
  • 社会に貢献したい
  • 人を喜ばしたい
  • 美しいものを作りたい
  • 競争で勝ちたい
  • プロとして高いパフォーマンスを出したい
  • 義務だからやらなくてはいけない

※もちろん、外発的モチベーション(賃金・暴力・出世や承認欲求)が否定されたわけではありません。実際には、多くの手段を用いて、やる気を引き出すことが得策でしょう。