「てれすこーぷ。」管理人のしまうまです。今回は 三面等価の原則を解説します。
三面等価の原則とは、マクロ経済学における国民経済理論の1つです。
ここでは原理の内容はもちろんのこと
生産面のGDPの内訳はなにか?
支出面のGDPの内訳はなにか?
分配面のGDPの内訳はなにか?
について解説します。最後には、ここからGDPにはどんな問題点があるのか?を解説します。
1、3面等価の原則とは何か
(1) 内容
三面等価の原則とは、生産面 ・支出面・分配面の国民経済規模が等しいという原則です。
これは経済規模を3つの視点から捉えただけで、同じものを説明していることから説明できます。
簡単に言うと、商品が売られた額(生産)、商品が買われた額(支出)、儲けたお金が誰かの財布に入った合計(分配)は、等しいからです。

(2)在庫投資という考え方 〜理論と現実のギャップ〜
ここで注意があります。
三面等価の原則で生産と支出が一致するということは、供給と需要が均衡していることを意味しません。
なぜなら、現実において生産したものはすべて売られるとは限らないからです。
しかし、これからみていくように三面等価の原則をもちいると、「国の富はどのような内訳をしているのか?」を明晰に分類することができますので、なんとか帳尻をあわたいです。
このために導入されたのが、在庫投資という考え方です。在庫投資とは、売れなかった商品は企業が「在庫品」として買うという考え方です。
こうすると、たとえ供給>需要でも、差の部分を在庫投資として支出側に足すので、生産と支出が一致します。
2、生産面のGDP
何をもって「国が豊か」と判断すべきでしょうか。
これには色々な議論がありますが、ひとまず、その国において「どれくらい生産されたのか」 に注目します。
この考え方が、生産面の国内総生産GDP(英語ではGross Domestic Product)という概念です。正確に言うと 生産面のGDPとは、国内において 生産されたすべての財・サービスの付加価値額の総額です。
付加価値とは、実際に売られた値段から中間投入財の値段を引いたものです 。
注意1:なぜ中間投入財を引くのか


なぜ中間投入財の値段を引くかというと、 二重計算を防ぐためです。
例えば、日本には
- ビール缶を100万円で企業Bに売る企業A
- ビールを200万円で消費者Cに売る企業B
しかないとします。
企業Bの商品200万円の価値のうち、100万円分は企業Aが作っていますね。
ここで、生産面のGDPを、企業Aの儲け100万円+企業Bの儲け200万円=GDP300万円とすると問題が起こります。
企業Aが作った価値を2回も計算しているからです。国内で生産された価値を計算するには、ビール缶分を引かなくてはいけません。
これが中間投入財の値段を差し引く理由です。
注意点2:固定資本減耗は引かなくてよい
その国において「どれくらい生産されたのか」 に注目したのがGDPです。しかし、これは「どれくらいの価値が増えたのか」と一致しません。
壊れた量をもともとの資産を代替するためにかかった費用で計算したものが、固定資本減耗といいます。
国内総生産GDPから固定資本減耗を差し引くと、国内純生産 NDPになります。これは別の概念ですので、注意してください。
3、支出面のGDP
次に 支出面のGDPについて考えます。支出面のGDPとは、「国内で生産されたものを誰が買ったか」で考えた場合のGDPです。
この支出面のGDPの内訳は、マクロ経済学の計算問題において非常に何度も出てきますので覚えましょう。
さて、マクロ経済学では経済主体として、家計・企業・政府・海外を考えます。
すると、支出面のGDPの計算は次のようにできます。
まず、家計支出を意味する民間消費C、 企業支出を意味する民間投資I、 政府支出G、海外の顧客の支出を意味する輸出EXを合計します。
次に、輸入品は「国内で生産されたもの」ではありませんので、上の合計から輸入IMを差し引きます。
これで支出面のGDPは算出できます。



注意1:貿易について
貿易についてですが、(輸出EX)ー(輸入IM)=(純輸出NX)と表現します。
注意2:政府統計の内訳
マクロ経済学の計算問題を解く上では、上の整理で構いません。
しかし、実際の政府統計では
- 民間消費=民間最終消費
- 政府支出のうち消費分=政府最終消費
- 民間投資+政府支出のうち投資分=総固定資本形成
- 輸出=財貨・サービスの輸出
- 輸入=財貨・サービスの輸入
に加えて
- 在庫品増加
と表記します。
4、分配面のGDP
最後に、分配面のGDPについて考えます。分配面のGDPとは、「儲けを誰に分配したか」で考えた場合のGDPです。
具体例で考えてみます。ビール缶を売った企業Aは、そのお金を自由にできません。
まず第1に、従業員にお金を払わなくてはいけませんし、将来のために企業にお金を残しておかなければなりません。 さらに、政府に税金を納めなくてはいけません。忘れがちですが、壊れたものは買い換えなくてはいけません。
ですので、分配面のGDPの内訳は、家計の収入、企業の収入、政府の収入、資本減耗の補填に分けることができます。
注意1:統計上の表記
実際の統計では、次の様に表されます。
分配面のGDP=
雇用者報酬+営業余剰・混合所得+間接税ー補助金+固定資本減耗
注意2:よくある再解釈
なお、マクロ経済学の議論では、分配面のGDPをさらに解釈したものが、よく使われます。収入は、消費か貯蓄に振り分けられます。固定資産減耗も買い替えているわけですから、消費といえます。
そこで
分配面のGDP=消費C+貯蓄I+租税T
と考えることもできるわけです。この計算式は、 ISバランス論やソロー・モデルでも用いられます。
5、計算法でわかるGDPの問題点
最後に、国の豊かさをGDPで測ることの問題点について考察していきましょう。
(1)固定資産減耗が考慮されていない
国内のゆたかさの変化は、「増加量」ー「減少量」で図ることができます。
GDPは「増加量」である生産量しか考慮していませんので、「壊れる」を議論に含めることができていません。
例えば最近の日本は低成長に甘んじていますが、高度経済成長期に作られた高速道路・水道などが壊れていることを考えると、日本の富の変化量はもっと 低く 見積もらなくてはなりません。
(2)在庫投資が組み込まれている
在庫品投資が組み込まれているのも問題です。
例えば作り過ぎてしまったとしても、在庫品投資という形になりますので、本来よりも富が多く見積もられてしまいます。
もし AIに GDPを増やせというように命令したら、きっと売れない商品を無限に作ることで GDPを増やすとするでしょう。これは健全な経済とは言えません。
(3)公害が考慮されていない
GDPは 市場で取引されてる物の価値しか計算できません。しかし、お金で計算できないものもあります。 その例が公害です。
これを踏まえると、公害の発生していた高度経済成長期の日本は成長率はもっと低く見積もるべきでしょう。
(4)家事労働が考慮されていない
同じ様にお金で計算できないものとして、 家事労働があります。
今は必ずしも家事は女性の役割ではなくなっていますが、 過去における女性の意味を見逃すことにつながります。
一部のジェンダー論者は、ここから GDPを男性的と批判しています。
(5)モノの豊かさは、幸福とは違う
GDPの本質は、国がどれだけのモノで満たされているかで、豊かさを測るという思想です。
けれども、モノがあれば人間は幸せというわけではありません。 例えば金持ちで豪邸に住んでいても、不幸な人はいるでしょう。
ですので、本当に幸福を図ろうとするならば GDPは適切ではありません。
4、おわりに
三面等価の原則から見るとGDPがどのような風に計算されているのかがはっきりわかります。
ここから日本・アメリカ・中国といった国々をどのように測定しているのかがわかります。
その点で三面等価の原則というのは、我々の世界観に大きな影響及ぼしています。
この記事が皆様のお役にたてば幸いです。
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