資本減耗(減価償却)(≒設備の老朽化・陳腐化)は、経済成長にどのような影響を与えるでしょうか?
この記事では、分析のために経済学部で習うマクロ経済学において最も重要な理論のひとつであるソロー・モデルを用います。
1、資本減耗とソローモデル
(1)資本減耗
経済成長のためには、設備が整っていることが重要です。
逆にいえば、設備の老朽化・陳腐化は経済成長にマイナスの影響を与えると推測できます。
この老朽化・陳腐化を経済学では資本減耗といいます。
資本とは、生産にもちいる機械・工場・建物などを言います。

(2)資本減耗が問題になる場合
資本減耗は、イギリス・アメリカ・ソ連などの成熟した先進国で問題になってきました。
ソビエト連邦(1989年まで世界2位の経済大国)の例を挙げましょう。

1980年代、世界がコンピューターやハイテク産業へとシフトしていく中で、ソビエト連邦は重工業中心の産業構造から転換できませんでした。
主要産業である重工業産業の設備の老朽化、産業転換にともなう既存産業の陳腐化が起きていたからです。
これはまさに資本減耗の問題です。
(3)経済成長の結末
※詳しくは→「ソロー・モデルの定常状態」
ソロー・モデルでは、経済成長は最終的に定常状態に帰着すると考えます。
具体的には、図の黒点で一人当たり資本量が決定されます。

3、資本減耗率の果たす役割
(1)資本減耗率の高低
下のグラフをみると、資本減耗率δは、定常状態の経済規模を決定する重要な要因となることがわかります。
ここで資本減耗率が高い場合と、低い場合について考えてみましょう。

(2)資本減耗率が高い場合
資本減耗率が高い場合、定常状態は左へ移動するので経済成長のマイナスの影響を与えます。
これは資本の老朽化が進み、成長著しい世界の中で陳腐化しつつある日本の今後を考える上で重要な示唆をあたえます。

(3)資本減耗率が低い場合
資本減耗率が低い場合、定常状態は右へ移動するので経済成長のプラスの影響を与えます。
これは新しい投資がなされ、最新鋭の工場が建設されている新興国の状況や、高度経済成長期の日本の状況を指し示しています。

(4)戦争と経済成長
また、資本減耗(フロー)と資本破壊(ストック)は区別しなくてはいけません。
資本破壊は戦争などで資本が使い物にならなくなってしまうことを意味します。
しかし、資本減耗率が変わっていない場合、定常状態の位置は変わりません。
定常状態から離れていると、早いスピードで元に戻ろうとします。
これは戦後、日本・ドイツで急速な経済成長がみられたことを説明することができるのです。
