ソロー・モデル/ 経済成長理論の基本

 経済成長理論の中で最も基本となるソロー・モデルを解説します。

 経済成長とは、好景気や不景気といった短期的な経済現象ではなく、数十年・数百年に及ぶ長期的な経済現象です。これをモデル化した理論が、経済成長理論となります。

 この記事では、経済成長理論の基本となるソロー・モデルを紹介します。ソロー・モデルの特徴は、わかりやすさにあります。経済学の基本を踏まえつつ、経済成長のメカニズムを説得力をもって導出します。その最も重要な結論は、長期的な経済成長率を左右するのは技術進歩と人口増加率であり、長期的な生活水準の成長率を決定するのは技術進歩率のみであるというものです。

 この記事は、経済学初心者でもソロー・モデルを理解できるように書きました。ぜひご一読ください。

しまうま

東大生/ 欲しいものは大局観。目指すは全体最適。|経済学の考え方が好きです。

1、ソロー・モデルの立ち位置

 ソロー・モデルとは、1956年に発表された古いモデルですが、経済成長の理解をする上で最も基本的なモデルとして生き延びています。実際に、上級マクロ経済学の教科書を開けば、ソロー・モデルが最初に紹介され、それを乗り越えていく形で発展的な経済モデルの議論が展開されていきます。

 ソロー・モデルは、主に4つの点で経済成長理論としての魅力的です。

 第一に、定型化された事実を説明できる点です。定型化された事実とは先進国の経済成長について共通してみられる現象であり、経済成長理論が現実的であるためにおさえなくてはならない論点になります。ソロー・モデルは特に次の定型化された事実を説明できます。(1)国内総生産Yの継続的な成長、(2)労働生産性Y/Lの継続的な向上、(3)一人当たりの資本K/Lの継続的な増加、です。

 第二は、大域的な安定性が確保されている点です。大域的とはざっくり言うとすべての場合についてという意味で、近しい場合についてという局所的の対義語です。ソロー・モデルでは、個々の経済事情を無視しても、最終的に行き着く先は同じという強固な結論が得られます。その点で、すべての経済について示唆を与えることができます。

 第三は、技術進歩の重要性を強く主張できる点です。産業革命以来、科学技術の重要性は周知の事実となりました。しかし、1956年以前の経済学者は、他の諸分野と整合性を保つ形で、技術進歩をモデルすることができていませんでした。ソロー・モデルの最も重要な結論は、生活水準を向上させるものは長期的には技術進歩のみという主張であり、近代人の感覚と一致しています。

 第四に、経済成長を表すグラフが簡潔明瞭でわかりやすい点です。数学は厳密性と簡潔性の点ですぐれた言語ですが、多くの人が苦手とする言語です。一方で、ソロー・モデルはグラフをもちいた議論を主軸として議論することができます。この点で、万人に開かれた議論です。

2、ソロー・モデルの前提知識

 ソロー・モデルは決して突飛なアイデアではありません。基本的な経済学の理解に則しつつ、それらが上手く組み合わさったのが、ソロー・モデルです。

 少々長くなったので、こちらへ移しました。

3、人口増加する国の経済成長

 さて、経済成長に関するソロー・モデルを構築していきます。この節では人口増加する国を考えます。

 論理の筋道は次の通りです。第一に、国全体のGDPを考えます。第二に、1人当たりGDPを考えます。第三に、短期の経済成長を考えます。第四に、中期の経済成長を考えます。第五に、長期の経済成長を考えます。

※経済学部生へ:ここでの短期は限りなくゼロに近いx年後、中期は時点tから定常状態に至るまで、長期は定常状態に達して以降の期間を意味していますが、これは「しまうま経済学研究所」独自の用語法です。一般には通じないですから、気をつけてください。

(1)国全体のGDP

 ソロー・モデルにおいて、GDPは生産要素によって完全に決定されます。技術Aここでは考えないとすると、GDPは労働Lと資本Kで決定されます。

  • Y=F(L、K)

前提知識:生産関数を参照

 ここでソロー・モデルが想定している仮定が、あらわになっています。それは、供給が需要を決定するというセイの法則です。これは新古典派とよばれる経済学の特徴です。新古典派は、ケインズ派と並んで近代経済学の双璧を占めている一派です。そのために、ソロー・モデルは「新古典派経済成長理論」とも呼ばれたりします。

(2)一人当たりGDP

 確かに国の経済力はGDPと同一視していいですが、人々の生活水準とGDPを同一視してもいいのでしょうか。もしGDPを生活水準と同一視するなら、日本の生活水準は中国の3分の1になってしまいます。

 生活水準を測るなら、一人当たりGDPで考えるべきです。一人当たり国内総生産Y/Lは、国内総生産Yを労働Lで割ることで導けます。

  • Y/L=F(L、K)/L

 少々、複雑ですね。労働Lと資本Kを計算し、国内総生産Yを計算し、労働Lで割るという4つの計算が必要です。

 ここで規模に対する収穫一定の仮定が威力を発揮します。規模に対する収穫一定とは、労働Lと資Kが同時にn倍になると、生産量もn倍になるという特性です。つまり、労働Lと資本Kが同時に1/L倍になると、生産量も1/L倍になるわけです。

前提知識:規模に対する収穫一定を参照

  • Y/L
  • =F(L、K)/L
  • =F(L/L、K/L)・・・規模に対する収穫一定より
  • =F(1、K/L)

 つまり、一人当たり資本K/Lが一人当たりのGDPを決定します。一人当たりを小文字で表現することにすると、一人当たりGDPを決定する生産関数を

  • y=f(k)

と表現できます。

 つまり、一人当たりGDPを考えるには、一人当たり資本kを計算し、一人当たり国内総生産yを計算するので、2つの計算に少なくできます。経済成長を考える上で、考えるべきことは一人当たり資本kに絞り込まれたわけです。

(3)短期の経済成長

<国全体>

 短期の経済成長を考えます。そのために、短期的な資本蓄積を考えます。さて、はじめに国全体の資本Kについて考えます。資本は

  • 資本蓄積△K=投資I

と増えていきます。簡単ですね。

<一人当たり>

 一人当たり資本kでは、どうでしょう。

 これは少々、ややこしくなります。なぜなら、人口増加が一人当たりの資本kが減らすからです。例えば、バスケ部員とバスケコートと考えてみます。

・バスケ部員10人&バスケコート2面のとき、一人当たりコートは0.2コート

ですが、

・バスケ部員20人&バスケコート2面のとき、一人当たりコートは0.1コート

に減ってしまいます。一人が使えるコートが狭くなるのが、人口増加の負の側面です。

 一人あたりの資本蓄積を考えるには、投資によるk変化人口増加によるk変化の双方を考えなくてはいけません。それぞれ分けて考えます。

 まず、投資によるk変化は、一人当たり投資iを考えればいいです。一人当たりを小文字で考えると

  • 投資による△k・・・一人当たり資本kの変化
  • =i・・・一人当たり投資
  • =sy・・・一人当たり貯蓄=【貯蓄率s】×【一人当たり所得】
  • =sf(k)・・・一人当たり貯蓄=【貯蓄率s】×【一人当たりGDP】

前提知識:「三面等価(所得=GDP)」「投資と貯蓄は等しい」を参照

仮定:貯蓄率sは一定とする

です。これが投資によるk変化です。f(k)とは、労働1人は固定して、資本kのみ変化させることですから、限界生産性が逓減します。これにsをかけたのですから、下図のグラフになります。

前提知識:限界生産性逓減を参照

 一方で、人口増加によるk変化は、臨界的投資をいうアイデアをもちいます。臨界的投資とは、一人当たりの資本を維持するのに必要な投資です。労働が人口増加率nで成長するなら、資本も人口増加率nで成長しなくてはいけません。ですから

  • 臨界的投資=人口増加率n×今の資本K

になります。しかし、臨界的投資は行われません。ですから、一人当たりで考えると

  • 人口増加による△k
  • =―臨界的投資
  • =―n k

です。

 ですから、

  • 一人当たり資本蓄積△k
  • =投資による△k+人口増加による△k
  • s f(k)―nk

という資本蓄積式が導けます。これを図にすると、下のように描けます。

 短期的な経済成長は、投資のプラス効果と人口増加のマイナス効果で決まるのです。

(4)中期の経済成長

 今度は、中期の経済成長について考えます。短期的な経済成長の分析にて、

  • △k=sf(k)-nk

と資本蓄積が進みました。これをよくみると、下図の点Eより左ではプラスの資本蓄積、右ではマイナスの資本蓄積がされることがわかります。したがって、中期において、一人当たり資本kは、点Eに収束していきます。

 建国時は一人当たり資本が少なく、点Eより左に位置しています。

 ですから、中期的にはプラスの資本蓄積が進みます。ただし、最終的には点Eに達し、資本蓄積がストップします。この資本蓄積がストップしていない期間を中期と呼びましょう。

 つまり、中期では

  • 一人当たり資本が、継続的に成長

します。これを一人当たりGDPについて考えます。上図の曲線は

  • 投資=貯蓄=sf(k)

ですが、一人当たりGDPは

  • y=f(k)

です。これを図にしてやると、下のようになります。

 上図より、中期的には資本蓄積により、一人当たりGDP(生活水準)が増大することがわかります。

(5)長期の経済成長(定常状態)

 しかし、技術進歩を考えないソロー・モデルの最終的な結論は、おどろくべきものになります。長期的には、一人当たり資本kは、点Eに到達し、永遠に変化しなくなります。この状態を定常状態と言います。

 資本の成長率はゼロ、一人当たりGDPの成長率はゼロに収束します。生活水準を意味する一人当たりGDPは永遠に変わらないということは、「生活水準の永遠なる停滞」を意味しています。

 これは一人当たり資本kの初期状態がどのような場合でも、変わらない結論です。したがって、大域的に安定しています。

 近年の世界経済の成長を考えれば、おかしな結論かもしれません。しかし、ホモ=サピエンス=サピエンス20万年の歴史を考えれば、現実に即しています。農業革命が起こり、文明が勃興したのは1万年前に過ぎません。つまり。19万年の間にわたり、我々の先祖の生活水準は停滞していました。人類史の大部分において、ソロー・モデルが導いた「生活水準の永遠なる停滞」は妥当な結論です。

※一人当たりGDPが変わらないということは、国全体のGDPは人口増加率で成長します。ですから、人口増加すれば、国全体の経済力は増大します。

4、プラス技術進歩がある国の経済成長

 人類の生活水準が急速に改善したのは、250年前の産業革命からです。産業革命は、蒸気からエネルギーを取り出して生産活動に活用する人類史に残る技術革命です。産業革命以後、人類は新しく手に入れたエネルギーを次々と生活水準の向上に役立てました。最初は、衣服生産、次は鉄鋼生産・機械生産と歩みを進め、生活を豊かに変えてきました。技術の進歩は止まるところを知らず、1000年前にかぐや姫が帰っていった月に人類を送り込むことにも成功しました。このように少なくともここ250年については、技術進歩を見逃すわけにはいきません

 そこで、ソロー・モデルに技術進歩を組み込んで議論します。人口増加のモデルに少々手を加えるだけです。

(1)国全体のGDP

 ソロー・モデルでは、供給がGDPを決定します。技術とは、ある意味、労働Lを増やすのに等しい働きをします。これを労働増大的技術進歩といいます。この定式化は、技術A×労働Lとするのが最もシンプルです。これを踏まえて生産関数を再設定すると、

  • Y=F(AL、K)

となります。

(2)有効労働一人当たりGDP

 生活水準を決定するのは一人当たり国内総生産yですから、単純に考えると次のようになりますy=F(AL、K)/L

 yの成長を考えるためには、技術A、労働L、資本Kを計算し、国内総生産Yを計算し、最後に労働Lで割るという5つの計算が必要になります。そこで、計算を単純にしてみます。

 ここで、人口増加と同じように労働Lで割ってみてもうまくいきません。

  • y
  • = F(AL/L、K/L)/L
  • =F(AL/L、K/L)・・・規模に対する収穫一定より
  • =F(A、k)

という具合に、関数の中にAとkの二つが入ってしまい、計算が3つにまでしか減りません。

 ここで、一つ工夫をします。技術A×労働者1人を有効労働1人と考えるのです。すると、技術進歩は人口増加と同一視できます。この節では、小文字を「有効労働1人当たり」を意味すると定義すると、

  • 有効労働一人当たり国内総生産y
  • =Y/AL
  • =F(AL、K)/AL
  • =F(AL/AL、K/AL)・・・規模に対する収穫一定より
  • =F(1、K/AL)
  • =f(k)

とシンプルに表記することができます。このとき、計算は2つに減ります。

(3)短期の経済成長

 短期の経済成長を考えます。そのために、短期的な有効労働一人当たり資本kの変化を考えます。投資によるk変化有効労働の増加によるk変化の双方を考えなくてはいけません。それぞれ分けて考えます。

 まず、

  • 投資による一人当たり資本変化△k
  • =投資i
  • =貯蓄
  • =sy
  • =sf(k) 

です。

 一方で、有効労働増加による一人当たり資本変化△kでは、臨界的投資をいうアイデアをもちいます。有効労働ALが(技術進歩率g+人口増加率n)で成長するなら、資本もg+nで成長しなくてはいけません。ですから

  • 有効労働増加によるk変化
  • =―臨界的投資
  • =―技術進歩率gと人口増加率nを埋め合わせる投資
  • =―(g+n)k

です。

 これらを合わせると

  • △k=s f(k)―(n +g)k

という資本蓄積式が導けます。

(4)中期の経済成長

 今度は、建国から定常状態にかけての経済成長について考えます。短期的な経済成長の分析にて、有効労働一人当たり資本は

  • △k=s f(k)―(n +g)k

と変化します。つまり、次のように資本蓄積が行われます。

 徐々に、有効労働一人当たりの資本が蓄積されていくことがわかります。この資本蓄積がストップしていない中期において、

  • 有効労働一人当たり資本は、継続的に成長
  • 有効労働一人当たりGDPも、継続的に成長

します。

(5)長期の経済成長(定常状態)

 技術進歩と人口増加を考慮したソロー・モデルでも、長期的には定常状態に到達します。有効労働者1人当たりの資本に変化が見られなくなり、有効労働1人当たりのGDPにも変化が見られなくなるのです。

 一見、さきほどの「生活水準の永遠なる停滞」と結論は変わっていないように見えますが、致命的に異なります。この場合の定常状態は、

  • K/ALに変化がない

ことを意味しますが、技術Aは技術進歩率gで成長していますので、同時に

  • K/Lも技術進歩率gで成長している

ことになります。もちろん、K/Lとは、一人当たり資本です。

 ですから、技術進歩がある場合、一人当たり資本K/Lは技術進歩率gで永遠に成長します。ゆえに、一人当たりGDPも永遠に成長します。つまり、技術進歩がある場合、「生活水準の永遠なる成長」が起こるのです。

 これを一人当たりのグラフに書き直しやると、よくわかります。技術進歩で一人当たり資本kが生み出せる生産量が増加します。これは曲線の上シフトです。したがって、定常状態は常に右へ移動するのです。

 

※国全体の経済成長率は、技術進歩率g+人口増加率nになります。

5、プラス資本減耗のある国の経済成長

 しかし、さきほどのモデルでは、「故障」「陳腐化」が含まれていません。そんなことはありえません。

 そこで、ソロー・モデルに資本減耗を組み込んで分析します。資本減耗とは、築いた資本が故障陳腐化することで価値を失うことです。ここでは、それに加えて、戦乱自然環境による継続的な資本破壊も資本減耗とみなします。

 興味深いのは、こうしても基本的な結論は変わらないと言う点です。

(1)国全体のGDP

 ある時点tでのGDPを決めるものは、労働L、資本K、技術Aと考えます。この点でさきほどと生産関数自体は変わりません。

  • Y=F(AL、K)

です。

(2)有効労働一人当たりGDP

 ここも、さきほどと同じで、シンプルに考えるために有効労働一人当たりのGDPと資本で考えます。

  • 有効労働一人当たり国内総生産Y/AL=f(k)

です。

(3)短期の経済成長

 短期の経済成長を考えます。ここで、資本減耗が登場します。国全体の資本Kについて、資本減耗がある場合、

  • 次の資本K=今の資本K+今の投資I―今の資本減耗δK

となります。

 ここで、資本減耗は、資本減耗率δ×今の資本Kでおこると考えましょう。この資本減耗率δは次のような要素でできていると考えてください。

  • 故障による減耗(例:PCの故障)
  • 陳腐化による減耗(例:時代遅れの設備)
  • 戦乱による減耗(例:戦国時代の田畑)
  • 自然環境による減耗(例:洪水が多発する街)

 ここで、とても好都合なことが起きていることに気がつくでしょう。資本減耗は万人がどの時代でも直面するので、一人当たりや有効労働一人当たりの資本減耗率は常にδで一定です。だから、まず資本減耗がおきていない場合での資本蓄積を考えてあげて、その後で、資本減耗を引いてやればいいです。

 つまり、有効労働一人当たり資本蓄積は

  • △k
  • =[人口増加・技術進歩の場合の資本蓄積]―[資本減耗]
  • =[s f(k)―(n +g)k]―[δk]
  • =sf(k)―(n+g+δ)k

と表せます。これがソロー・モデルの資本蓄積式の最終形態になります。

(4)中期の経済成長

 今度は、建国から定常状態にかけての中期の経済成長について考えます。すると、結論は、前と全く変わりません。

有効労働一人当たり資本蓄積は

  • △k=s f(k)―(n +g+δ)k

で、次のように資本蓄積が行われます。

 すると、

  • 有効労働一人当たり資本は、継続的に成長
  • 有効労働一人当たりGDPも、継続的に成長

します。さきほどと同じです。

(5)長期の経済成長(定常状態)

 つまり、長期的な経済成長である定常状態での状況も変わりません。

  • 一人当たりの資本は、技術進歩率gで成長
  • 国全体の資本は、技術進歩率g+人口増加率nで成長

 そう考えると、故障・陳腐化・戦乱・自然環境による資本減耗があっても、技術進歩と人口増加がある限り、中期的にも長期的にも経済成長を遂げるのです。

6、豊かさの決定要因

 今まで得られた強固な結論は、

  • 長期的な生活水準の「変化」(△y)を決めるのは、技術進歩
  • 長期的な経済力の「変化」(△Y)を決めるのは、技術進歩人口成長

であるということです。

 生活水準に話を絞りましょう。では、技術進歩以外に、長期的な生活水準の「大きさ」(y)に影響を及ぼすものはなんでしょうか。

 そこで、長期的な豊かさの水準について考えます。手がかりになるのは、いままで一定と仮定していた「貯蓄率s」「人口増加率n」「技術進歩率g」「資本減耗率n」、さらに暗黙のうちに仮定していた「機能する市場メカニズム」「無限の開発可能性」です。

(1)貯蓄率sと黄金律

 貯蓄は投資を生み、投資は資本蓄積します。したがって、高い貯蓄率は、高い一人当たりGDPを実現します。例えば、低い貯蓄率から高い貯蓄率に上がったとき、定常状態は下のように変化し、一人当たりGDPを増大させます。

 ここで注意があります。通常、貯蓄率一定を仮定しているので、一人当たりGDPの増大は、消費増大を意味します。

 しかし、貯蓄と消費はトレードオフの関係にあります。ですから、貯蓄率s増大による一人当たりGDPの増大は、必ずしも消費増大を意味しません。ここで、消費を最大化する「経済成長の黄金律」をどのように実現すべきかという問いが生まれます。

 グラフをもちいると、下図のように消費と貯蓄が表せます。

 ここで貯蓄率sを変化させると、必ずしも高いGDPで、消費が大きいわけでないことに気がつくでしょう。ここで、定常状態の貯蓄は、必ず直線上で実現していることをみてください。

 つまり、❶直線と曲線の差を最大にする一人当たり資本kを見つけた後に、それを❷実現するように貯蓄率を調整すれば、「経済成長の黄金律水準」を実現できます。

 下図をみると、❶直線と曲線の差が最大になるのは、下図のように、

  • 生産関数の接線の傾きf'(k)
  • n+g+δ

が一致するとき(並行)です。❷これを実現する貯蓄率sを見つければよいわけです。

 このようにして貯蓄率を評価すると、世界中の国々で貯蓄率が低すぎることが実証研究で明らかになっています。高度経済成長の日本の原因として「高い貯蓄率」が挙げられることがありますが、これは他国が「低すぎる」中で日本が「相対的に高かった」から際立っていることなのです。

(2)人口増加率n

 人口増加は、一人当たり資本を少なくします。したがって、低い人口増加率は、高い一人当たりGDPを実現します。下の図でも、人口増加率に上がったとき、定常状態は下のように変化し、一人当たりGDPを減少させます。

 人口減少を問題視している現在の日本では意外なことですが、近代の多くの時期においてむしろ人口増加こそが問題視されていました。戦前日本の移民政策(ハワイ、アメリカ西海岸、ブラジル、満州)、中国の一人っ子政策などが政策的には有名です。

 ところで、これは人口論で有名なマルサスが考えた人類の長期的な貧困化とは、異なります。マルサスは「生活資源は等差級数的に増えていく(毎年の成長量が同じ)が、異性間の情欲は止められないため人口は等比級数的に増えていく(毎年の成長率が同じ)。結果、生活資源の圧倒的不足という絶望的な貧困社会が到来する」と指摘しました。

 そして、マルサスの予言は部分的に当たりました。近代において、人口は等比級数的に増えていたのです。しかし、世界の生活水準は全体的には向上したという点で、マルサスの予言は間違っています。

 一方で、ソローも実は等比級数的な人口増大を仮定していますが、投資が行われることにより人口増加に合わせて資本が等比級数的に蓄積されていくため、永遠に続く貧困のどん底へ転落は起こりません。さらに、技術進歩が起こるなら、むしろ生活水準は向上していきます。実際に、人口・資本・GDPは等比級数的に増大し、生活水準は向上しています。

参考:マルサスの絶望とソローの楽観

・・・

 では、いま日本で問題になっている人口減少はどうでしょうか。ソロー・モデルでは、人口減少をむしろ生活水準を向上させるものとして歓迎します。実際に、サッカー部やテニス部などの人気部活では、新入生をしごいて部員を減らし、一人当たりの資本を増大させようとすることを踏まえると、納得のいく結論です。

 では、生活水準はむしろ向上するのに、なぜ人口減少が悪者になっているのかというと、企業の業績に響くのは国全体のGDPであるからです。技術進歩がなければ、人口減少する場合、長期的なGDPは人口減少率で減少していきます。したがって、例えば、GDP1%に相当する市場を独占している企業の業績も、人口減少率で自然減少していきます。もしこれを回避するには、イノベーションによる技術進歩するしかありません。

 

(3)技術進歩率g

 技術進歩率gとは、技術Aの成長率です。もちろん、高い技術進歩率は、生活水準を高くします。しかし、グラフで考えると、やっかいなことがおこります。高い技術進歩率が、一人当たり資本を減らしているようにみえるのです。

 しかし、これは誤解です。さきほどは、一人当たり(L)で考えていたのに、いまは有効労働1人当たり(AL)で考えているからです。一人当たり資本K/Lが減少したわけではありません。

 一人当たりのグラフで考えるとわかります。もともとの低い技術進歩率をG1、新しい高い技術進歩率をG2とします。もともとG1で生産関数が上シフトしていたのが、G2になることでさらに上シフトが加速していることがわかります。

(4)資本減耗率δ

 この記事において、資本減耗とは、故障・陳腐化・戦乱・自然環境による継続的な資本の減少を意味します。高い資本減耗率は、低い生活水準をもたらします。「腐海」のところで、議論した通りです。

 ただ、ここで「陳腐化」について付け加えておきたいです。陳腐化とは、故障などはしていないが時代に遅れになって価値を失うことです。もし、経営者や政治家が判断能力に欠ければ、投資した資本はすぐに陳腐化し、価値を失います。これは人々の生活水準を下げます。ここに人的資本という概念を持ち込むのであれば、教育機関や家庭教育が適切に機能しない場合でも同じことが起きることがわかるでしょう。

(5)機能する市場メカニズム

 マクロ経済では、三面等価が成り立ちます。

  • 企業が生産する付加価値である生産面のGDP(供給)
  • =消費者と企業が受け取る価値である支出面のGDP(需要)
  • =企業が消費者と資本家に報酬として渡す分配面のGDP(所得)

が一致していることです。つまり、マクロ経済全体で見れば、供給=需要=所得という原則です。

[供給と需要]

 本来の経済であれば、財の需要不足(売れ残れ)が発生します。しかし、ソロー・モデルでは、企業は潜在生産力をフル活用して、供給をおこなうと考えるだけです。ですから、供給が無駄にならないために、物価が伸縮的に変動して需要が供給に一致させなくてはいけません。ソロー・モデルでは財市場が機能することが前提になっています。

[供給と所得]

 さらに、本来の経済であれば、生産要素の超過供給(失業遊休する資本)が発生します。しかし、ソロー・モデルでは生産要素はフル活用する必要があります。ですから、供給が無駄にならないために、生産要素価格が伸縮的に変動して需要が供給に一致するように変化しなくてはいけません。ソロー・モデルでは労働市場と資本市場が機能することが前提になっています。

 このように、潜在生産力が現実の生産になるには、財市場・労働市場・資本市場が機能する必要が暗黙のうちに想定されています。

(6)無限の開発可能性

 最後が、無限の開発可能性です。ソロー・モデルでは、資本・人口・技術は無限に成長できるものと仮定しています。

 技術進歩がない場合、石油・鉄が有限であれば無限の資本蓄積はできませんし、耕作可能面積が有限である限り、無限の人口増加はできません。もちろん無限の技術進歩が可能であれば、無限の資本蓄積と人口増加は可能になります。しかし、技術進歩のフロンティアははたして無限でしょうか。明らかに技術によって、生産性を無限大にまで向上させることはできないでしょう。

 ここから見えてくるのは、有限の開発可能性です。そして、これは「成長の限界」、「かけがえのない地球」、「持続可能な開発目標(SDGs、Sustainable Development Goals)」としてたびたび指摘されていた論点になります。

 実際に、資本蓄積が実質的に限界に達した産業があります。農業です。農業は人類の生存に直結する産業ですから、すくなくとも人口成長率以上の資本蓄積をしていなくてはいけません。特に、主要なカロリー源となり、牛や豚の飼料になる穀物の生産は重要です。しかし、下表をみてください。

人口増加率穀物生産量増加率農地増加率単収増加率
1.35%~2.05%2.15%0.125%2.075%

 1960年から2000年にかけて、世界人口の年平均増加率は1.35%~2.05%です。しかし、農業資本たる穀物用農地の増加は年平均0.125%に過ぎません。恐ろしいことに農地の伸びのみでは、人口を支えきれていないのです。けれども、1ヘクタール当たりの収穫量(単収)は年平均2.075%で成長しました。結果的に、穀物生産量は毎年2.15%伸びていき、人口増加の1.35%~2.05%を上回りました。

 つまり、農業では、資本蓄積はほぼ進まず、技術進歩のみが人口増加を支えるという構図が出来上がっているのです。けれども、近年は単収増加率が鈍化しており、技術進歩が今後人口を支えられるのかはわからない状況です。

 もし開発不可能性に直面した場合、そこを起点にソロー・モデルがいう「生活水準の永遠なる成長」は実現できません。

 そして、付け加えるべきことがあります。私はさきほど『風の谷のナウシカ』における腐海を、資本減耗といいました。しかし、これは腐海を過小評価しています。腐海は、開発不可能性のシンボルです。旧世界の人々が開発可能性を踏み越えて汚染した大地を浄化する存在であり、新世界の人々がまざまざと見せつけられる人類の限界だからです。くわしくは、ぜひ原作漫画をお読みください。全7巻のマンガのうち、映画になっているのは1.5巻分です。私が一番好きなマンガです。

7、結論

 ソロー・モデルは、長期の豊かさを分析する理論です。したがって、現生人類が誕生し農耕を開始するまでの19万年にわたる長期停滞、産業革命から現在に至る250年の爆発的成長の時代、今後ありうる長期停滞または衰退のすべてを説明可能である必要があります。

 ソロー・モデルが導く最も基本的な結論は、

  • 中期的な経済成長(非定常状態)から長期的な経済成長(定常状態)へ移行する

です。そして、

  • 長期的(定常状態)には、生活水準の向上は技術進歩のみによってうまれる
  • 長期的(定常状態)には、国の経済力の向上は技術進歩と人口増加のみによってうまれる

ということです。

 ここで「変化」ではなく、「水準」に視点を移します。すると、

高い一人当たりGDPを実現するには、

  • 高い貯蓄率
  • 低い人口増加率
  • 高い技術進歩率
  • 低い資本減耗率(耐久性が高く陳腐化しない資本、平和、過ごしやすい自然環境)

によってもたらされます。

 また、市場メカニズムの機能・当面の開発可能性が必要です。

 これを踏まえると、19万年にわたる長期停滞の原因は技術停滞のみに、過去250年の人類の飛躍は技術進歩のみに帰せられます。なぜなら、これは「変化」に関する現象であるからです。この結論は非常に強固です。

 もちろん過去における「達成できたはずの生活水準」との比較が可能であるのなら、そこに貯蓄率・人口増加率・技術進歩率・資本減耗率・市場メカニズム・開発可能性の視野を加えることができます。なぜなら、これは「水準」に関する現象であるからです。

 そして、もし未来で人類が衰退するなら、原因は技術退歩および開発可能性の消滅です。

 このように非常に包括的な議論をシンプルなグラフを用いて行えるのが、ソロー・モデルの魅力です。この点で、人類の豊かさに関係するすべての議論の出発点になるモデルです。その点で非常に意義は大きいです。すべての人、特にエリートと呼ばれる人には、ぜひとも知っておいていただきたい議論です。

8、ソロー・モデルの問題点

 ソロー・モデルの理論的な問題点は、技術進歩がどのように決まるのかを説明できない点にあります。経済学では、モデルの中で決まらない要素を外生的、モデルの中で決まる要素を内生的といいます。この観点からすると、ソロー・モデルにとって技術進歩は完全に外生的です。最終的に経済成長を決める要素が外からふってくるため、ソロー・モデルは外生的経済成長理論とも言われます。これは理論家にとって、不満な点です。他にも、「貯蓄率sは一定で、人の合理的な意思決定の結果として経済を記述していない。つまり、ミクロ的基礎付けができていない」という点も重大な問題です。

 また、実証的な問題点は、労働生産性の成長率が国によって大きく異なり、さらに縮まっていく傾向をみせないことを、説明できないことにあります。ソローモデルによれば、たとえ初期の一人当たり資本量が異なっていても、中期の経済成長を経ると、長期的には労働生産性の成長率がすべての国で収束し、一致するはずです。もちろん、本記事のように技術進歩率は国や時代によって異なると言い切ってしまえば、この矛盾は解消します。これは条件付き収束と呼ばれる解釈です。しかし、これは「国による差異」の原因を「国による差異」に求めているのにすぎませんから、理論的には不十分でしょう。

 最後に、実践的な問題点は、「技術進歩が重要である」という指針は示すものの、あるべき経済政策を具体的に指摘してくれない点もあります。

 この3点を解消すべく経済成長率がモデル内で決まるような内生的経済成長理論が、研究されています。ここでは、研究開発投資によって決定される技術進歩による経済成長に加えて、規模に対する収穫逓増や知識のスピルオーバー(漏出)効果などの論点も含みます。さらには、政府・金融・市場競争・失業・インフレといった経済学でお馴染みの論点に加えて、富の格差・「将来世代の無視」といった論点も加わります。

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