わかりやすい国民経済計算/ 国内総生産GDPとは何か

 マクロ経済学では国の豊かさを議論の最終的な対象にします。

 では、何を国の豊かさと考えればいいのでしょうか?

 まずマクロ経済統計の基本をさらった後に、国内総生産GDPについて詳しく述べます。

 生産面のGDP、支出面のGDP、分配面のGDPという考え方は非常に重要です。

 最後に、ストックの国の豊かさである国富を見てきます。

 2015年日本の実際の統計を用いました。

しまうま

東大生/ 欲しいものは大局観。目指すは全体最適。|経済学の考え方が好きです。

1、マクロ経済統計の基本

(1)マクロ経済学とは

 マクロ経済学は、経済全体について考える学問です。その視点は、集計された経済活動に注がれます。

 したがって、マクロ経済統計がどのような意味をもっているのかを知っておかなくてはいけません。

(2)フローとストック

 マクロ経済統計は主に2つに分けられます。フロー変数ストック変数です。

  • フロー:時点Aから時点Bの変化量
  • ストック:時点Aでの量

 これをわかりやすく図にしてやると、次のように考えられます。左が時点Aのストック、右が時点Bのストックです。増加と減少の2要因が重なり、変化が生まれていますが、これらがフローというわけです。

 家計レベルでみると

  • フロー→年収、年間支出
  • ストック→資産(=預金、保有株式、不動産など)

になります。

(3)実物経済と金融経済

 では、フローとストックは、マクロ経済学においてどのように注意すべきでしょうか。

  • フロー→生産活動(実物経済
  • ストック→資産(金融経済

に関わっていると言ってよいです。そして1国単位でみると、主要概念は

  • フロー→国内総生産GDP
  • ストック→国富

になります。この記事では、それぞれについて見ていきます。

(4)実物経済

 なお、実物経済の担い手は、大きく家計企業政府外国の4部門に分けられます。

(5)金融経済

 あまり想像のつかない金融経済ですが、そこで取引されるものは大きく貨幣債券に分けられます。

 貨幣は中央銀行が発行しますが、民間銀行は信用創造でこれを増やす役割を担います。

 資産には債券・株式・土地などがありますが、これらをまとめて「債券」と呼称することにします。

(6)名目と実質

 マクロ「経済」統計ですから、単位は貨幣(円、ドル、ユーロなど)になります。しかし、1円の価値はどの時代でも同じわけではありません。

 例えば

  • 明治時代:小学校先生の初任給=8円
  • 令和時代:小学校先生の初任給=20万円

になっています。これは小学校の先生が2万倍も優秀になったわけではなく、1円の価値が下がったからです。

 もし額面上の数字(=名目)にだけに注目すると、実際にやり取りされたモノの個数(=実質)の変化を見逃してしまいます。

 なお、このように1円の価値が減ってしまい、モノの値段が「見かけ上」高くなることをインフレーション(略:インフレ)といいます。

 逆に、1円の価値が上がり、モノの値段が「見かけ上」低くなることをデフレーション(略:デフレ)といいます。

 長期的な分析をする際には、この名目と実質の差異が重要になってきます。

(7)為替レート

 円はアメリカでは使えません。アメリカではドルを使う必要があります。

 そのために、日本の経済統計は、アメリカの経済統計はドルで計算されます。

 このままでは比較できませんが、例えば

  • 大豆、牛肉を輸入したい日本人
  • 自動車を輸入したいアメリカ人

がいると、「円とドルを交換しよう」という外国為替市場が成立し、貨幣の交換比率が決まります。この交換比率を為替レートといいます。

 そこで、各国経済を比較する際には、為替レートをもちいて計算します。アメリカのドルで計算することが多いです。

2、国内総生産GDP

(1)フローで考える国の豊かさ

 次にフローで国の豊かさを考えてみます。

  • フロー:ある期間での変化量
  • 生産活動
  • 実物経済

は密接に関連しています。用いる概念は国内総生産GDPです。

(2)国内総生産GDPとは

 国内総生産(GDP)とは、ある期間、国内で、生産された付加価値を合計したものです。

 付加価値とは、最終生産物から原材料を差し引いた価値になります。

(3)なぜ付加価値で考えるのか?

 なぜ売り上げではなく、付加価値を合計するのでしょうか?

 これは二重計算を防ぐためです。

 例えば、農家とレストランしかない国の豊かさを求めましょう。

 レストランは、農産物と調理を合わせた価値を世の中に提供しています。

 しかし、農産物を作り出したのは農家であり、レストランの働きは「調理」のみにあります。

 もし何も考えずに統計局が、農家とレストランの売り上げを合計してしまうと、

  • 国内総売上
  • =(農家の売上)+(レストランの売上)
  • =(農産物の価値)+(農産物の価値+調理の価値)

と農産物の価値を二重計算してしまいます。これは明らかに国の豊かさを過大評価しています。

 一方、付加価値の合計である国内総生産GDPは

  • 国内総生産GDP
  • =(農家の付加価値)+(レストランの付加価値)
  • =(農産物の価値)+(調理の価値)

となるわけです。

 このように考えると、GDPは社会に行き渡った経済的価値、つまり、国の豊かさと同一視できるわけです。

(4)国内総生産GDP内訳 〜2015年〜

 国内総生産GDPは、生産面のGDPとも言います。各産業の付加価値を合計すれば求めることができます。

 以下は2015年日本の産業別付加価値ランキング(産業連関表)です。

※各部門の付加価値額は産業連関表から求めました。産業連関表と国民経済計算では集計上の概念が異なるため、単純に比較できませんが、

  • 粗付加価値額の合計ー家計外消費支出の合計
  • ≒国内総生産GDP

になります。

3、三面等価の原則

 さて、経済には一つの原則があります。

 社会全体で見ると

  • 商品が売られた額(生産)
  • 商品が買われた額(支出)
  • 儲けたお金が誰かの財布に入った合計(分配)

は等しいという原則です。

 これを三面等価の原則といいます。

 これをGDP概念で捉えると

  • 生産面のGDP ・・・供給
  • 支出面のGDP ・・・需要
  • 分配面のGDP

は等しいといえます。

 ここからは、

  • 支出面のGDP
  • 分配面のGDP

をみていきます。

4、支出面のGDP

 支出面のGDPについて考えます。これは需要と密接に関わる概念で、財政政策や金融政策を考える上で重要になります。

(1)Y=C+I+G+NXという単純化

 概念上の話をまず述べましょう。さきほど述べた通り、実物経済は大きく4部門に分けることができます。

 それぞれの支出を合計してやると

  • 消費C+投資I+政府支出G+(輸出EXー輸入IM)
  • =支出面の国内総生産Y

となります。外国人が買った輸出は国内生産しているのでプラスし、外国人が売ってきた輸入は海外生産しているのでマイナスしています。

※純輸出=輸出ー輸入

(2)支出面のGDP「統計」

 ただし、上は概念上の枠組みで、実際の統計では次のように記述されます。

  • 支出面のGDP統計
  • =民間最終消費+政府最終消費+総固定資本形成+(輸出ー輸入)+在庫品増加

です。

(3)理論と統計の違い

 単純化された支出面のGDPと、実際に取られた統計である支出面のGDP統計は、大きく違くみえます。

 この違いについて考えます。

  • 支出面のGDP=消費C+投資I+政府支出G+純輸出NX
  • 支出面のGDP統計=民間最終消費+政府最終消費+総固定資本形成+純輸出+在庫品増加

(4)在庫投資

 理論と統計の最も大きな違いは、在庫品増加が追加されている点です。

 ここでは「生産しても売れない場合、企業が在庫品として買っている」と見なしています。

 これがあるために、需要と供給が一致していない場合でも、支出面のGDP統計と生産面のGDP統計は一致します。

  • 供給≠需要

のときでも

  • 供給=需要+在庫品増加

は成り立つというわけです。

(5)民間最終消費、政府最終消費、総固定資本形成

 理論と統計の字面上の違いはつぎのように整理できます。

  • 政府支出G=政府Gがする消費+政府Gがする投資

とした上で

  • 民間最終消費=消費C
  • 政府最終消費=政府Gがする消費
  • 総固定資本形成=投資I+政府Gがする投資

(6)支出面のGDP統計内訳 〜2015年〜

 2015年の国内総支出は次のような内訳になっています。

※この年は、輸入が輸出より多く、純輸出がマイナスになっています。

※棒の長さは数値の大きさと比例していません。

5、分配面のGDP

 さて、最後は分配面のGDPです。

(1)Y=労働所得+資本所得=C+S+T

 世の中には労働者と資本家がいます。労働者は労働を売り、資本家は資本を貸して、収入を得ます。

 企業の儲けはすべて彼らに分配されるとしましょう。

  • 分配面の国内総生産Y=労働所得+資本所得

 労働者も資本家も実は消費者ですから、所得を

  • 分配面の国内総生産Y=消費C+貯蓄S+税金T

に割り振ることになります。

(2)分配面のGDP「統計」

 ただし、上は概念上の枠組みで、実際の統計では次のように記述されます。

  • 分配面のGDP統計
  • =雇用者報酬+営業余剰+固定資本減耗+間接税ー補助金+統計上の不突合

です。

(3)理論と統計の違い

 単純化された分配面のGDPと、実際に取られた統計である国内総所得GDIは、大きく違くみえます。

 この違いについて考えます。

  • 分配面のGDP=労働所得+資本所得
  • 分配面のGDP=消費C+貯蓄S+税金T
  • 国内総所得GDI=雇用者報酬+営業余剰+固定資本減耗+間接税ー補助金+統計上の不突合

(4)労働・企業・政府・統計上の不突合

 概念上最も大きな違いは、

  • 概念:労働者と資本家
  • 統計:労働者と企業と政府

に注目しているという点です。

 また、集計概念の違いにより、三面等価の原則が成立しなくなっている分については、「統計上の不突合」として処理されています。

(5)雇用者報酬

 労働は、もちろん雇用者報酬として記録されています。これは労働所得と同じと考えてもいいでしょう。

(6)営業余剰、固定資本減耗

 次は企業です。

  • 売り上げー原材料費=付加価値

ですが、企業はすべての付加価値を儲けとするわけにはいきません。

 なぜなら、過去の大型投資は、何年かにわけて費用として計上するからです。それを払った残りが儲けになります。

 この何年かに分けて費用として計上しているのが固定資本減耗、残りが営業余剰です。

※固定資本減耗:建物、機械設備等の固定資産は、生産過程における利用による摩耗や、年月の経過による老朽化、 陳腐化等により、その価値が減少します。こうした資産価値の減少分を「固定資本減耗」といいます。

(7)間接税と補助金

 政府は、間接税補助金として記録されています。

 間接税は政府の収入で、補助金は政府の出費になります。

 なぜ直接税は無視して、間接税のみ考えるのでしょうか?

 それは、付加価値に、間接税は含まれますが、直接税は含まれないからです。

 例えば、110円の商品で、原価70円、消費税10円なら

  • 付加価値=売り上げ110円ー原材料費70円=40円

ですが、

  • 付加価値40円
  • =企業の儲け30円+間接税10円

です。間接税の処理をしないと、生産面のGDPと分配面のGDPが等しくならなくなってしまいます。

 逆に、所得税や法人税といった直接税は、生産活動と関係なく徴収されるので、分配面のGDP計算に入れる必要はありません。

 補助金も同じです。

(8)分配面のGDP統計内訳 〜2015年〜

 2015年の分配面のGDP統計は次のような内訳になっています。

6、GDP統計の限界

 国の豊かさとしてGDPを考えるには、次のような批判があります。

(1)真の豊かさとは?

 批判「国の豊かさを測ると豪語するが、本質的にお金では測れない価値もある。例えば、人間関係の価値・文化の豊かさ・自然の素晴らしさなどだ。」

→GDP「その通りです。GDPはあくまで経済的豊かさに限定した概念です。

  • 国の豊かさ=経済的な豊かさGDP+非経済的な豊かさ

と考えてください。」

(2)ストックの豊かさを軽視しているのでは?

 批判「経済的豊かさをフローで測っているが、例えば古代文明や近代文明のストックが残るヨーロッパ人の豊かさはそれでは測れないのではないか」

→GDP「その通りです。ただし、家賃については自分で保有していても、自分で自分に貸す『帰属家賃』として計算しています。」

(3)公共サービスの価値は計算できないのでは?

 批判「平和、治安、消防、行政サービスといった公共サービスは、市場取引されていない。なら適正な価値を算出できないのではないか」

→GDP「その通りです。一応、公共サービスにかかった費用を『生産額』としていますが、それが適正な額かといわれると自信ないです。ちなみに、政府の付加価値=生産額ー原材料費=公共サービス費用ー原材料費=公務員の給料です。」

(4)家事労働がGDPに加算されないのは女性蔑視だ

 批判「多くの女性は家事労働しているが、これは市場取引されていないのでGDPに反映されていない。結果的に、専業主婦の付加価値を0と見積もっている。これはジェンダー的に大きな問題である。」

→GDP「多くの人々と多くの時間が費やされる家事労働の付加価値を加算すると、GDPは大きく増えるでしょう。ただ、家事労働をどう評価するかは、技術上難しい問題です。もちろん、女性蔑視な統計を作るという意図はありません。」

(5)年収が高いからといって幸せとは限らないのでは?

 批判「年収が高くても、激務で誹謗中傷の嵐なら幸せではない。GDPのようなお金概念では『精神的な豊かさ』を測れないので、GDPは測定する意味がない」

→GDP「もちろん精神的な豊かさはGDPでは測れません。しかし、モノがあれば生活水準を向上させられ、精神的な豊かさにも繋がります。ひとまず、国の豊かさを測る上でGDP概念を用いることは適切なことだと思います。」

7、国富National wealth

(1)ストックで考える国の豊かさ

 最後にストックで国の豊かさを考えてみます。冒頭で

  • ストック:ある時点での量
  • 資産
  • 金融経済

はすべて関連しており、その主要概念は国富であると述べました。

 これを理解するには、賃借対照表(バランスシート)の考え方が不可欠です。

(2)賃借対照表とは

 賃借対照表とは、

  • いま1000万円の資産をもっているけど(資産)
  • 600万円を借りているから(負債)
  • 実質的には400万円もっているのかあ(純資産)

というような状況を表す表です。シンプルに考えると下のように表せます。

(3)国民賃借対照表

 これを日本国のすべての経済主体について計算してやると、下のようなバランスシートが出来上がります。総資産は1京1375兆円国富は3689兆円! とてつもない数字です。

(4)金融資産の二面性

 しかし、ところでその内訳を見てやると、

  • 現金・預金
  • 貸出-借入

については資産と負債がほぼ同じで、打ち消しあっていることがわかります。

 これは金融資産は、「誰かが誰かに貸している」という性質を持っているからです。例えば、預金は家計目線では資産ですが、銀行目線では負債です。貸出は銀行目線では資産ですが、企業目線では借入であり負債です。

 ですから、国民全体で合計した時、両者は打ち消され、多くの金融資産は国富に入りません

(5)国富とは何か

 では、何が国富になるのでしょうか。

一つは対外純資産

 一つは、海外に貸し付けている資産(対外純資産)です。

  • 日本がもつ金融資産ー日本の負債
  • =日本が海外に貸している資産
  • =対外純資産

は、366兆円になります。

もう一つは非金融資産

 もう一つは、非金融資産です。非金融資産には、固定資産(1993兆円)や土地(1250兆円)がここに含まれます。

国富の内訳

 これを踏まえると、次のように国富を分けることができます。

 この対外純資産と非金融資産の合計が、国富になります

国富の大部分が非金融資産の意味

 言い換えれば、「実物資産」と「外国への貸し」こそが国の豊かさになるというわけです。

 ここで、上をもう一度みると、国富の大部分が非金融資産であることがわかります。

 現金・預金・株式・債券といろいろな金融資産が登場してきましたが、最終的に「実体のあるモノ」こそが富であるというのは興味深い結論です。

8、統計の出典

(1)部門ごとの付加価値額

 産業連関表は5年に1度しか作成されません。2021年11月現在の最新版である2015年の産業連関表を使いたかったので、以下のGDP統計も2015年に合わせました。

(2)国内総支出

(3)国内総所得GDI

(4)国民賃借対照表

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