効用最大化をラグランジュの未定乗数法で解く

 コブ・ダグラス型効用関数を想定した効用最大化問題を、ラグランジュの未定乗数法で解きます。

要約

(1)問い

$$\max_{X,Y} U(X, Y) = X^\alpha Y ^{\beta}$$

$$s.t. I =P_X X+ P_Y Y$$

のとき、最適消費はなんと表せるでしょうか? (数式の解説は後ほど)

(2)結論

 最適消費点は

$$X=\frac{\alpha}{(\alpha + \beta)P_X}I  Y=\frac{\beta}{(\alpha + \beta)P_Y}I$$

です。(数式の解説は後ほど)

(3)意義

 2財モデルにおける、効用最大化の最もシンプルな理解が得られます。

 また、このタイプの問題は期末試験、公務員試験、各種資格試験で超頻出問題ですので、その解法を知れるという点で、読む価値があります。

前提

 問いを

$$価格P_XのX財の消費量をX$$

$$価格P_YのY財の消費量をY$$

$$効用関数をU(X, Y) = X^\alpha Y ^{\beta}$$

$$予算Iで、予算制約がI =P_X X+ P_Y Y$$

のときに、予算制約下での効用最大化したとき、最適な消費計画(X,Y)はどう表せるか?とします。これを言い換えると、冒頭の数式になります。

 ここでは以下の仮定、事実を用います。

(1)仮定する条件

 この問いを現実世界に応用することを考えると、次の条件を暗黙のうちに仮定しています。

2財の経済

 社会には、財が2種類しかないと仮定しています。複数財で最もシンプルな仮定を採用しています。

消費者はプライス・テイカー

 ひとりの消費者ではプライス・テイカーであり、市場価格を受け入れるしかないと仮定します。

消費者の予算は所与

 消費者は消費行動をする際は、予算を変えられないとします。つまり、買い物をするまでに、お小遣いも、アルバイトも、クレジットカードローンもできないと仮定します。

合理的経済人

 個人を、合理的経済人と仮定しています。合理的とは「自分が一番いいと思うことをやる」という意味です。経済学的には効用最大化すると表現できます。

コブ・ダグラス型効用関数

 個人の効用関数は、次のコブ・ダブラス型効用関数に従うと仮定します。

$$U(X_1, X_2 \cdots X_n) = k X_1^{\alpha_1} X_2^{\alpha_2} \cdots X_n^{\alpha_n}$$

$$ただし、nは財の種類の総数、k>0、\alpha>0$$

 2財モデルの場合のコブ・ダブラス型効用関数は

$$U(X_1, X_2) = k X_1^{\alpha_1} X_2^{\alpha_2} $$

です。

(2)事実

ラグランジュの未定乗数法

$$制約条件g(x,y)=0のもとで$$

$$目的関数f(x,y)を最大化する(x,y)は何か$$

という等号制約つきの最大化問題では、一定の条件を満たせば、次のラグランジュの未定乗数法が使えることが知られています。

 第一に、次のラグランジュ関数Lを設定します。λはラグランジュ乗数と呼ばれる未知の定数です。

$$L(x,y,\lambda)=f(x,y) + \lambda g(x,y)$$

 第二に、ラグランジュ関数Lを最大化させる(x,y)を求めます。この(x,y)はラグランジュ関数Lをx、y、λで偏微分してゼロになる3つの連立方程式の解です。

$$\frac{ \partial L(x,y,\lambda)}{\partial x}=0$$

$$\frac{ \partial L(x,y,\lambda)}{\partial y}=0$$

$$\frac{ \partial L(x,y,\lambda)}{\partial \lambda}=0$$

ラグランジュ関数を最大化する(x,y)は、もともとの等式制約つきの最適化問題の解(x,y)です。

結果

(1)ラグランジュの未定乗数法

 予算制約から制約条件は

$$g(X,Y)=I – P_X X- P_Y Y=0$$

と表せ、効用最大化から目的関数は

$$f(X,Y) = U(X, Y)=X^{\alpha} Y^{\beta}$$

です。したがって、次のラグランジュ関数を最大化すれば、予算制約下での効用最大化の解になります。

$$L(X, Y, \lambda) = X^\alpha Y^{\beta} + \lambda (I – P_X X- P_Y Y)$$

(2)偏微分

 ラグランジュ関数を最大化する(x,y)は

$$\frac{\partial L}{\partial X}=\frac{\partial L}{\partial Y}=\frac{\partial L}{\partial \lambda}=0$$

を満たします。これを実際に計算すると↓

$$\frac{\partial L}{\partial X}=\alpha X^{\alpha-1} Y^{\beta}- \lambda P_X=0…式(1)$$

$$\frac{\partial L}{\partial Y}=\beta X^{\alpha} Y^{\beta-1}- \lambda P_Y=0…式(2)$$

$$\frac{\partial L}{\lambda}=I-P_X X- P_Y Y=0…式(3)$$

となります。ちなみに、式(3)は予算制約式そのものです。

(3)連立方程式

 あとは式(1)(2)(3)を解けばいいです。式(1)、式(2)を「λ=?」とまとめるのがポイントです。式(1)、式(2)はそれぞれ↓

$$\lambda=\frac{\alpha}{P_X} X^{\alpha-1} Y^{\beta}…式(4)$$

$$\lambda=\frac{\beta}{P_Y} X^{\alpha} Y^{\beta-1}…式(5)$$

となります。式(4)と式(5)の右辺は等しいので↓

$$\frac{\alpha}{P_X} X^{\alpha-1} Y^{\beta}=\frac{\beta}{P_Y} X^{\alpha} Y^{\beta-1}$$

$$\frac{\alpha}{P_X}Y (X^{\alpha-1} Y^{\beta-1})=\frac{\beta}{P_Y} X (X^{\alpha-1} Y^{\beta-1})$$

$$\frac{\alpha}{P_X} Y=\frac{\beta}{P_Y} X$$

$$y =\frac{\beta P_X}{\alpha P_Y}X…式(6)$$

です。式(6)を予算制約式(←式(3)と同じ)に代入すると↓

$$P_X X + P_Y \left(\frac{\beta P_X}{\alpha P_Y}X \right)=I$$

$$\frac{\alpha P_X}{\alpha }X+ \frac{\beta P_X}{\alpha}X=I$$

$$\frac{(\alpha +\beta)P_X }{\alpha }X= I$$

$$X=\frac{\alpha}{(\alpha + \beta)P_X}I…式(7)$$

 式(7)で求まったXを式(6)に代入して↓

$$Y =\frac{\beta P_X}{\alpha P_Y}\frac{\alpha}{(\alpha + \beta)P_X}I$$

$$Y=\frac{\beta}{(\alpha + \beta)P_Y}I…式(8)$$

(4)解

 ラグランジュ未定乗数法によれば、ラグランジュ関数を最大化したものは、もとの制約条件下での最大化問題の解です。

 したがって、コブダグラス型効用関数の基での予算制約下の効用最大化問題の解は、式(7)(8)より、一意に定まります。↓

$$X=\frac{\alpha}{(\alpha + \beta)P_X}I  Y=\frac{\beta}{(\alpha + \beta)P_Y}I$$

$$なお、\alpha,\beta は定数 これらは所与$$

$$ P_X:X財の価格, P_Y:Y財の価格, I:予算  これらは所与$$

 

考察

(1)結論

 今回の問いは次のように定式化できます。

$$\max_{X,Y} U(X, Y) = X^\alpha Y ^{\beta}$$

$$s.t. I =P_X X+ P_Y Y$$

 これは「効用関数Uを最大化maxする(X,Y)を求めよ。ただし、 I=PX+PYという制約s.t.がある」という意味です。このときの解は

$$X=\frac{\alpha}{(\alpha + \beta)P_X}I  Y=\frac{\beta}{(\alpha + \beta)P_Y}I$$

です。

(2)妥当性評価

 今回のモデルは、正確に現実を表すとは言えません。なぜなら、強い仮定をおいて定式化しているからです。一般に、経済学は強い仮定をおいて定式化します。今回も人間行動の一般理論としては、非常に強く、非現実的な仮定をおいています。

(3)意義

2財モデル

 この記事では、2財モデルにおける、効用最大化の最もシンプルな理解が得られます。

試験対策

 また、このタイプの問題は期末試験、公務員試験、各種資格試験で超頻出問題です。実際には、α、β、I、XとYの価格Pが具体的な数値として与えられることが多いです。その場合、ラグランジュの未定乗数法を使ってもいいですし、

$$X=\frac{\alpha}{(\alpha + \beta)P_X}I  Y=\frac{\beta}{(\alpha + \beta)P_Y}I$$

を公式の代わりに使うことも可能です。覚えるのは少々苦労しますが、「付録1:解の性質」をみれば覚えやすいかもしれません。

付録1:解の性質

 今回の答えはややこしくみえますが、少しの変形で、シンプルな性質をもっていることがわかります。式(7)より↓

$$X財への支出=P_X X=\frac{\alpha}{\alpha + \beta}I$$

と言えます。これはつまり

  • X財には、総予算Iのうち、割合α/(α+β)の分を必ず払う
  • [注]αはxの次数、βはyの次数

ということを意味しています。例えば、X財が食費、Y財がその他なら

  • α/(α+β)がエンゲル係数(消費支出に占める食料費の割合)

となります。

付録2:ラグランジュ乗数λ

 ラグランジュ関数は

$$L(X, Y, \lambda) = X^\alpha Y^{\beta} + \lambda (I – P_X X- P_Y Y)$$

でしたが、これをよく見ると

$$L=効用+\lambda(予算ー支出)$$

です。ラグランジュ乗数λは「金銭の大小」の単位を、「効用の大小」の単位に変換する役割を持っていると言えます。

 もっと言えば、λとは「1円増えると効用がいくら増えるか?」という貨幣の限界効用を表します。

付録3:費用便益分析への拡張

 貨幣の限界効用がλなら、効用をλで割ると単位をお金に揃えることができます。つまり、

$$貨幣換算の効用\frac{L}{\lambda}=\frac{効用}{\lambda}+(予算ー支出)$$

と変形すると、効用の貨幣換算が可能です。すると、政策分析の分野で使われる費用便益分析に使えます。