「長期的な生活水準を決めるのは経済成長である。そして、経済は最終的に定常均衡に至り、技術進歩が一人当たりGDPの成長を決定する」と「ソロー成長モデル」にて述べた。しかし、ソロー・モデルでは、家計の効用最大化は組み込まれておらず、企業の利潤最大化も明示的には含まれていなかったので、自由な経済で定常均衡を実現することは自明ではなかった。
ここで最適成長モデルを考える。これはラムゼイ・モデル、ラムゼイ・キャス・クープマン・モデル(Ramsey–Cass–Koopmans model)とも呼ばれる。最適成長モデルは、ソロー・モデルに家計の生涯効用の最大化、企業の利潤最大化を導入する。また、最適成長モデルでの結果は、市場メカニズムを導入した分権的な意思決定の結果と一致することが知られている。なお、家計は無限期間生きると考えるため、王朝モデル(Dynasty model)の一種である。つまり、各期の皇帝は子孫の繁栄を考慮して、現在の消費と貯蓄を決定する。具体的な説明は画像の下、詳細なモデルは【追記:モデル】をご覧頂きたい。
$$時間がt=1,2,3,・・・と進んでいく$$
$$t期に技術A_t、人口L_t、資本K_tが存在する$$
$$企業は利潤最大化を行う$$
$$国内総生産Y_tはY_t=F(A_t,L_t,K_t)で決定される$$
$$国内総生産は回り回って家計の所得となるY_t^{生産}=Y_t^{所得}$$
$$家計は生涯効用を最大化するように$$
$$Y_t^{所得}を消費C_tと貯蓄S_tに分ける$$
$$金融機関は貯蓄S_tを企業に貸し、企業は投資I_tを行う$$
$$利子率が資金需給を均衡させS_t=I_tとなる$$
$$投資I_tで資本は増えるが、一定割合\deltaで減耗する$$
$$資本蓄積K_{t+1}=K_t+I_t-\delta K_tがなされ$$
$$技術進歩A_{t+1}=(1+g)A_tが起き$$
$$人口成長L_{t+1}=(1+n)L_tが起る$$
$$t+1期の国内総生産Y_{t+1}はY_{t+1}=F(A_{t+1},L_{t+1},K_{t+1})で決定される$$
$$この繰り返し$$
先取りすると最適成長モデルの結論は「鞍点経路を経て定常均衡に達する」「長期的には、一人当たりGDP(=生活水準)の成長率は、技術進歩率に収束する」「長期的には、GDP(=国力)の成長率は技術進歩率と人口成長率の和に収束する」「以上の成長経路ではパレート最適が実現されている」である。つまり「各期では、自由な市場経済に任せるとよい」「長期的には、技術進歩が生活水準を決める」が最適成長モデルの示唆である。
【追記:モデル】
アルファベットの定義は「t:離散的な時間。自然数。time」「Y:国内総生産。Yield」「F:マクロ生産関数。Function」「K:資本。Kapital(ドイツ語)」「Asset:資産。」「A:技術係数。Art」「L:労働(=人口)。Labor」「I:投資。Investment」「r:利子率。rental price」「w:賃金。wage」「S:貯蓄。Saving」「β:割引因子」「g:技術進歩率。Growth」「n:人口成長率。Number」「δ:固定資本減耗率。fixed capital Depreciation rate)。また、モデルを解く際は「効率労働:AL」とし、効率労働一単位当たりの資本、生産関数などを小文字で表すことが多い。例えば、k=K/AL、f(k)=F(K/AL,1)。
$$【縮約版】$$
$$\max \sum_{t=0}^{\infty} \beta^t u \left( \frac{C_t}{L_t} \right)$$
$$s.t. \frac{C_t}{L_t}+\frac{K_t}{L_t}=(1+r_{t}) \frac{K_{t-1}}{L_t}+\frac{w_t L_t}{L_t}$$
$$K_{t+1}=F(K_t,A_t,L_t) – C_t -(1-\delta)K_t$$
$$L_{t+1}=(1+n)L_t、A_{t+1}=(1+g)A_t$$
$$【家計:数理モデル】$$
$$一人一人が生涯効用を最大化。ただし、各期に予算制約あり$$
$$\max \sum_{t=0}^{\infty} \beta^t u \left( \frac{C_t}{L_t} \right)$$
$$s.t. \frac{C_t}{L_t}+\frac{[Asset]_t}{L_t}=(1+r_{t})\frac{[Asset]_{t-1}}{L_t}+\frac{w_t L_t}{L_t}$$
$$0期の初期保有資産は\frac{[ASSET]_0}{L_0} \left( =(1+r_0)\frac{[Asset]_{-1}}{L_0} \right)$$
$$ポンジゲーム禁止条件:\lim_{t=\infty} \frac{[Assset_{t}]}{(1+r)^t}≧0$$
$$【家計:日本語での説明】$$
$$0期から\infty期までの効用uの割引現在価値を最大化 \maxする$$
$$ただし、消費+資産=資産+資産利回り+労働所得の制約s.t.が各期にある。$$
$$そして、最終期において負債を残してはいけない。言い換えると$$
$$借金を借金で無限に返すポンジゲームをしてはいけない。$$
$$\frac{C_t}{L_t}:今期tの消費$$
$$\frac{[Asset]_t}{L_t}:今期の資産$$
$$\frac{w_t L_t}{L_t}:労働所得$$
$$(1+r_t)\frac{[Asset]_{t-1}}{L_t}:資産+資本所得$$
$$\frac{C_t}{L_t}+\left( \frac{[Asset]_t}{L_t} -\frac{[Asset]_{t-1}}{L_t} \right) =r_t \frac{[Asset]_{t-1}}{L_t}+\frac{w_t L_t}{L_t}と書き換えると$$
$$つまり、消費+貯蓄=資産所得+労働所得とすると$$
$$\left( \frac{[Asset]_t}{L_t}-\frac{[Asset]_{t-1}}{L_t} \right):今期tの貯蓄(マイナスなら借入)$$
$$r_t \frac{[Asset]_{t-1}}{L_t}:資本所得$$
$$↑前期(t-1)企業に貸した資本からの利回りを今期(t)獲得$$
$$無限期間での効用最大化なので王朝モデル$$
$$資本は各期の人々に平等に分配$$
$$等質な家計を仮定$$
$$【家計:ポンジゲーム禁止条件】$$
$$ポンジゲーム禁止条件についてだが$$
$$0期から\infty 期までの消費+貯蓄=資産+所得を現在価値に直して両辺合計すると$$
$$左辺のt期における貯蓄の現在価値\frac{1}{(1+r)^t}\frac{[Asset]_t}{L_t}と$$
$$右辺のt+1期における資産の現在価値\frac{1}{(1+r)^{t+1}}(1+r)\frac{[Asset]_t}{L_t}が$$
$$消去できるので、最終的に右辺の初期値[ASSET]_0、左辺の最終値\lim_{t=\infty} \frac{[Assset_{t}]}{(1+r_t)^t}が残り$$
$$\sum_{t=0}^\infty \frac{1}{(1+r)^t}\frac{C_t}{L_t}+\lim_{t=\infty} \frac{[Assset_{t}]}{(1+r_t)^t}=A_0+\sum_{t=0}^\infty \frac{1}{(1+r)^t}w_t$$
$$となる。ここで\lim_{t=\infty} \frac{[Assset_{t}]}{(1+r_t)^t}<0とは$$
$$生涯所得+初期保有より多い消費をすることになり$$
$$最終期に借金を残してはいけないという条件に違反するので$$
$$\lim_{t=\infty} \frac{[Assset_{t}]}{(1+r_t)^t}≧0$$
$$との条件を加えるのがポンジゲーム禁止条件の意図である。$$
$$【企業:実物資本と金融資産】$$
$$t-1期に家計がt期の資本に出資して、家計が資本を所有$$
$$K_t=[Asset]_{t-1}$$
$$K_tは実物資本、[Asset]は金融資産$$
$$なお、資本財Kと消費財Cは同一が仮定されている$$
$$【企業:実物資本の成長】$$
$$資本遷移式:K_{t+1}=K_t+I_t-\delta K_t$$
$$次期の資本=今期資本+投資-資本減耗$$
$$【企業:利潤最大化】$$
$$各期に利潤最大化$$
$$\max F(K_t, A_t,L_t) -w_t L_t -r_t [Asset]_{t-1} -\delta [Asset]_{t-1}$$
$$ただし、K_t=[Asset]_{t-1}$$
$$企業は賃金wで労働LをL所有者からレンタル$$
$$企業は利子率rで資本Kを[Asset]所有者からレンタル$$
$$企業は\delta K_tを資本減耗により失う$$
$$【企業:技術面】$$
$$国内総生産:Y_t=F(K_t,A_tL_t)$$
$$ただし、マクロ生産関数は次の3条件を満たす。$$
$$限界生産性は正:\frac{\partial Y}{\partial K}>0,\frac{\partial Y}{\partial L}>0$$
$$↑生産要素を増やせば生産量は必ず増える$$
$$限界生産性逓減:\frac{\partial^2 Y}{\partial K^2} <0,\frac{\partial^2 Y}{\partial L^2} <0$$
$$↑生産要素を増やせば、増える生産量は必ず減っていく$$
$$規模に対して収穫一定:F(\lambda K, \lambda AL)=\lambda F(K, AL)$$
$$↑資本Kと効率労働ALを2倍にしたら生産性変わらず生産量Yは2倍$$
$$↑数学的には1次同次という。$$
$$↑n次同次:F(\lambda K, \lambda AL)=\lambda^n F(K, AL)$$
$$【財市場均衡条件】$$
$$Y_t=C_t+I_t (三面等価の原則)$$
$$生産面のGDP:Y_t$$
$$支出面のGDP:C_t+I_t$$
$$財供給F(K_t,A_t L_t)側が需要(C_t+I_t)を決定$$
$$なお、政府部門G_t、海外部門NX_tを無視$$
$$【金融市場均衡条件】$$
$$投資:[Asset]_{t}-[Asset]_{t-1}=I_t$$
$$完全競争市場で、資本の限界生産性と等しくなるよう利子率r_tが調整$$
$$【労働市場均衡条件】$$
$$労働:L_t^{供給}=L_t^{需要}(w_t)$$
$$労働供給L_t^{供給}側が労働需要L_t^{需要}を決定$$
$$完全競争市場で、労働の限界生産性と等しくなるよう賃金w_tが調整$$
$$【動学モデル】$$
$$資本遷移式:K_{t+1}=K_t+I_t-\delta K_t$$
$$=Y_t-C_t+(1-\delta)K_t なぜなら財市場均衡条件$$
$$=F(K_t,A_tL_t)-C_t+(1-\delta)K_t$$
$$マルサス型の指数関数的人口成長L_{t+1}=(1+n)L_t$$
$$外生的な技術進歩:A_{t+1}=(1+g)A_t$$
$$【家計についての補足】$$
$$効用関数を特定化して考えたい場合は$$
$$u \left( \frac{C_t}{L_t} \right)=\frac{ \left( \frac{C_t}{L_t} \right)^{1-\theta}}{1-\theta}$$
$$のCRRA型を使って良い。$$
$$\thetaは相対的リスク回避度と解釈できる。$$
$$なお、\theta=1のとき、CRRA型は \log 型効用関数となる$$
$$\theta=1のとき、u \left( \frac{C_t}{L_t} \right)=\log \left( \frac{C_t}{L_t} \right)$$
$$【企業についての補足】$$
$$生産関数を特定化して考えたい場合は$$
$$F(K_t,A_tL_t)=K_t^\alpha (A_tL_t)^{1-\alpha}$$
$$0<\alpha<1。\alphaは資本分配率と解釈できる。$$
$$のコブ・ダグラス型を使って良い。これは上の3条件を満たす。$$
$$ただし、ソロー・モデルの結論は3条件が満たされる生産関数なら成り立つ。$$