ソロー成長モデルについて / 経済成長理論

 西暦1年から1000年にかけて世界経済は2倍に成長したが、1820年から2003年にかけて世界経済は60倍にまで空前絶後の大発展を遂げた。18世紀のイギリスで産業革命が起こり、科学の力で経済が急速に発展を遂げたのである。長期的な生活水準を決めるのは、個人や企業の最適化行動ではなく、短期的な好景気・不況でもなく、経済成長である。

画像1:GDPの超長期推計。超長期の経済推計で有名なマディソンのデータを用いて作成。世界のGDP合計は1500年で0.25兆ドル、1600年で0.33兆ドル、1700年で0.37兆ドル、1820年で0.70兆ドル、1870年で1.1兆ドル、1913年で2.7兆ドル、1950年で5.3兆ドル、1973年で16兆ドル、2003年で41兆ドルである。

 

 問いは「経済成長がなせ起こるか?」である。ソロー成長モデル(Solow growth model, Solow–Swan model, 1956)は、経済成長についての最もシンプルなモデルである。ソロー成長モデルには「資本蓄積」を含み、さらに「技術進歩」「人口成長」の要素も含む。ソロー成長モデルの概略を図式でわかりやすく描いた。具体的な説明は画像の下、詳細なモデルは【追記:モデル】をご覧頂きたい。

$$時間がt=1,2,3,・・・と進んでいく$$

$$t期に技術A_t、人口L_t、資本K_tが存在する$$

$$国内総生産Y_tはY_t=F(A_t,L_t,K_t)で決定される$$

$$国内総生産は回り回って家計の所得となるY_t^{生産}=Y_t^{所得}$$

$$家計はY_t^{所得}を消費C_tと貯蓄S_tに分ける$$

$$なお、貯蓄率sは一定とするS_t=sY_t$$

$$金融機関は貯蓄S_tを企業に貸し、企業は投資I_tを行う$$

$$利子率が資金需給を均衡させS_t=I_tとなる$$

$$投資I_tで資本は増えるが、一定割合\deltaで減耗する$$

$$資本蓄積K_{t+1}=K_t+I_t-\delta K_tがなされ$$

$$技術進歩A_{t+1}=(1+g)A_tが起き$$

$$人口成長L_{t+1}=(1+n)L_tが起る$$

$$t+1期の国内総生産Y_{t+1}はY_{t+1}=F(A_{t+1},L_{t+1},K_{t+1})で決定される$$

$$この繰り返し$$

 

 先取りするとソロー成長モデルの結論は「長期的には、一人当たりGDP(=生活水準)の成長率は、技術進歩率に収束する」「長期的には、GDP(=国力)の成長率は技術進歩率と人口成長率の和に収束する」である。「産業革命以来の経済成長は科学技術によるもの」という通念と整合的だ。最近は「科学万能」と言われる時代ではないが、科学が人類の生活水準を決定づけたのは改めて認識しておくべきだ。理系ガンバレ!

※なお、詳細な議論は「経済成長の決定要因について / ソロー・モデル」をご覧頂きたい。

 

【追記:モデル】

 アルファベットの定義は「t:離散的な時間。自然数。time」「Y:国内総生産。Yield」「F:マクロ生産関数。Function」「K:資本。Kapital(ドイツ語)」「A:技術係数。Art」「L:労働(=人口)。Labor」「I:投資。Investment」「S:貯蓄。Saving」「g:技術進歩率。Growth」「n:人口成長率。Number」「δ:固定資本減耗率。fixed capital Depreciation rate)。また、モデルを解く際は「効率労働:AL」とし、効率労働一単位当たりの資本、生産関数などを小文字で表すことが多い。例えば、k=K/AL、f(k)=F(K/AL,1)。

$$【家計】$$

$$投資:S_t=sY_t$$

$$貯蓄率s一定を仮定:s_t=s$$

$$これはクズネッツ型消費関数$$

$$【企業】$$

$$国内総生産:Y_t=F(K_t,A_tL_t)$$

$$ただし、マクロ生産関数は次の3条件を満たす。$$

$$限界生産性は正:\frac{\partial Y}{\partial K}>0,\frac{\partial Y}{\partial L}>0$$

$$↑生産要素を増やせば生産量は必ず増える$$

$$限界生産性逓減:\frac{\partial^2 Y}{\partial K^2} <0,\frac{\partial^2 Y}{\partial L^2} <0$$

$$↑生産要素を増やせば、増える生産量は必ず減っていく$$

$$規模に対して収穫一定:F(\lambda K, \lambda AL)=\lambda F(K, AL)$$

$$↑資本Kと効率労働ALを2倍にしたら生産性変わらず生産量Yは2倍$$

$$↑数学的には1次同次という。$$

$$↑n次同次:F(\lambda K, \lambda AL)=\lambda^n F(K, AL)$$

$$【財市場均衡条件】$$

$$Y_t=C_t+I_t$$

$$生産面のGDP:Y_t$$

$$支出面のGDP:C_t+I_t$$

$$財供給F(K_t,A_t L_t)側が需要(C_t+I_t)を決定$$

$$なお、政府部門G_t、海外部門NX_tを無視$$

$$【金融市場均衡条件】$$

$$投資:S_t=I_t$$

$$資金供給S_t側が資金需要I_tを決定$$

$$I_t(r_t)と考え利潤最大化問題を解けば利子率r_tを得られる$$

$$【労働市場均衡条件】$$

$$労働:L_t^{供給}=L_t^{需要}$$

$$労働供給L_t^{供給}側が労働需要L_t^{需要}を決定$$

$$L_t^{需要}(w_t)と考え利潤最大化問題を解けば賃金w_tを得られる$$

$$【動学モデル】$$

$$資本遷移式:K_{t+1}=K_t+I_t-\delta K_t$$

$$=sF(K_t,A_tL_t)+(1-\delta)K_t$$

$$マルサス型の指数関数的人口成長L_{t+1}=(1+n)L_t$$

$$外生的な技術進歩:A_{t+1}=(1+g)A_t$$

$$【企業についての補足】$$

$$生産関数を特定化して考えたい場合は$$

$$F(K_t,A_tL_t)=K_t^\alpha (A_tL_t)^{1-\alpha}$$

$$0<\alpha<1。\alphaは資本分配率と解釈できる。$$

$$のコブ・ダグラス型を使って良い。これは上の3条件を満たす。$$

$$ただし、ソロー・モデルの結論は3条件が満たされる生産関数なら成り立つ。$$

経済成長
しまうま

しまうま総研管理人
20代男性/神奈川出身/東大卒
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