固定効果推定量(FE:fixed effects estimator)は、下の固定効果モデルのβ1からβkを推定する方法である。時間を通じて不変の固定効果(=β0とα)そのものは推定できない。それでも、パネル・データの分析において、固定効果推定量はよく使われる。なぜなら、αとXが相関している場合、最小二乗法で推定すると内生性バイアスが発生するが、固定効果推定量はこのバイアスを回避できるからである。
$$固定効果モデル Y_i=\beta_{0}+ \alpha_i+\beta_1 X_{1it} +\cdots + \beta_kX_{kit}+U_{it}$$
$$i:データ番号、t:時間、k:説明変数の数$$
固定効果推定量では、まず、個体(i)ごとに時間平均をとり、変数から時間平均を引く(固定効果変換)。次に、定数項なしの最小二乗法を適用する。これ得られた推定量が固定効果推定量だ。
$$X_{1it} の時間平均を \overline{X_{1i}} とすると$$
$$固定効果モデル Y_{it}=\beta_{0}+ \alpha_i+\beta_1 X_{1it} +\cdots + \beta_kX_{kit}+U_{it}$$
$$固定効果変換後 (Y_i-\overline{Y_{i}})=\beta_1 (X_{1it}-\overline{X_{1i}}) +\cdots + \beta_k (X_{kit}-\overline{X_{ki}})+(U_{it}-\overline{U_{i}})$$
パネルデータを分析する際、《私》は固定効果推定量を便利に使うことができる。固定効果モデルの詳細は「固定効果モデルについて」をご覧頂きたい。
【追記】
・Rによる固定効果推定について:パッケージplmを用いて計算できる。シミュレーションによるplmの使用に関心のある方は「固定効果モデルについて」の追記をご覧頂きたい。
#パネルデータとする
library(plm) #パッケージの呼び出し
Data1 #元のデータ
Data2 <- pdata.frame(Data1, index = c("クロスセクションID","時間変数")) #plm用のデータに変換
model_FE <- plm(formula = Y ~X1 + X2,model="within",data=Data2) #固定効果推定
model_OLS <- plm(formula = Y ~X1 + X2,model="pooling",data=Data2) #プーリングOLS
summary(model_FE)
summary(model_OLS)
・固定効果推定量が不偏性、一致性、漸近正規性を持つための仮定について:少なくとも強外生性(strict exogeneity)が必要である。強外生性とは、個体i、時点tの誤差項Uitが、個体iのすべての時点t=1,2,・・・Tの説明変数Xと相関を持っていないという仮定である。
$$強外生性E(U_{it}|\{ X_{1it},\cdots , X_{kit}\}_{t=1,2 \cdots T})=0$$
・標準誤差について:クラスター構造に頑健な標準誤差(cluster robust standard error)を使用するべきだ。パネルデータは、時系列データと同じで、誤差項が自己相関していると考えられる。同一個体の異なる時点間の誤差項同士が相関しているからだ。なお、クラスター構造に頑健な標準誤差はHAC標準誤差(不均一分散と自己相関がある場合でも一致性を持つ漸近分散推定量に基づく標準誤差)である。
・最小二乗法について:パネル・データに最小二乗法(OLS)を適用する際は、特別にプーリングOLSと言う。上で見たように固定効果推定量は、結局は最小二乗法で計算するからだ。「プーリングOLSとしての最小二乗法」と「固定効果推定としての最小二乗法」は区別したい。
・プーリングOLSについて:αをコントロールできる欠落変数さえ見つかり、内生性の問題が回避できるならば、プーリングOLSを用いてよい。プーリングOLSだと、定数項もわかるので、予測ができる。仮定も強外生性ではなく、外生性でよい。
$$重回帰モデル Y_i=\beta_{0}+\beta_1 X_{1it} +\cdots + \beta_kX_{kit}+(U_{it}+\alpha_i)$$
$$外生性E(U_{it}+\alpha_i| X_{1it},\cdots , X_{kit})=0$$
・変量効果推定量について:「αが説明変数と相関していない」なら、変量効果推定量が使える。なお、固定効果推定量は「αが説明変数と相関している」「αが説明変数と相関していない」の両方とも使えるので、変量効果推定量よりも頑健性を持つ。
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