T期モデルでの家計の最適化問題について / 動学ミクロの消費-貯蓄、労働-余暇

 T期間にわたる異時点間での家計の最適化問題(消費、貯蓄、労働、余暇)をラグランジュの未定乗数法で導出する。「2期の消費選択」「消費と貯蓄のT期モデル」「1期での労働余暇選択」がより簡単なモデルで、この記事ではこれらを統合した。さて、家計の動学的最適化問題は、次のように定式化できる。

$$\max U=\sum_{t=0}^T \beta^t u(c_t, l_t)$$

$$Uは効用の割引現在価値 [全期間]、u(\cdot)=効用関数 [1期間 ]$$

$$\beta=割引因子、c_t=t期の消費、Tは期間数$$

$$l_t=t期の余暇、h_t=t期の労働、なおh_t+l_t=1(※保有時間を1とした)$$

$$求めるべきは消費計画 \{c_1,c_2,\cdots , c_T \}、貯蓄計画\{a_1,a_2, \cdots ,a_{T}\}$$

$$さらに労働計画 \{h_1,h_2,\cdots , h_T \}、余暇計画\{l_1,l_2, \cdots ,l_{T}\}$$

$$所与の定数は賃金計画\{w_1,w_2, \cdots w_T\}と初期保有資産A_0$$

$$s.t.(制約条件)$$

$$h_t+l_t=1$$

$$すべての期について消費c + 貯蓄a=労働所得wh+資産a$$

$$1期:c_0 + a_{0}=w_0 h_0+A_0 ※A_0は初期保有資産$$

$$1期:c_1 + a_{1}=w_1 h_1+(1+r)a_0$$

$$2期:c_2 + a_{2}=w_2 h_2+(1+r)a_1$$

$$3期:c_3 + a_{3}=w_3 h_3+(1+r)a_2$$

$$ \cdots$$

$$t期:c_t + a_{t}=w_t h_t+(1+r)a_{t-1}$$

$$ \cdots$$

$$T-1期:c_{T-1} + a_{T-1}=w_{T-1}h_{T-1}+(1+r)a_{T-2}$$

$$T期:c_T + a_{T}=w_{T}h_{T}+(1+r)a_{T-1}$$

$$ただし 終点条件a_{T} ≧0。借金残存は許さない。結果的にa_{T} =0$$

 

 動学的な消費・労働・余暇の選択問題も、ラグランジュの未定乗数法を用いて計算することができる。

$$制約条件は消費c + 貯蓄a=労働所得wl+資産aとなるT+1本の予算制約式と$$

$$労働h_t+余暇l_t=保有時間1となるT+1本の時間制約式であるので$$

$$ラグランジュ関数Lを次のように設定する$$

$$L=\sum_{t=1}^T \beta^t u(c_t,l_t)+\sum_{t=1}^T \lambda_{t,予算 } [w_t h_t+(1+r)a_{t-1}-c_t – a_{t}]+\sum_{t=1}^T \lambda_{t,時間 }[1-h_t-l_t]$$

$$c_t、l_t,h_t、a_{t}について偏微分したものがゼロだから$$

$$c_t :\beta^t \frac{\partial u(c_t,l_t) }{\partial c_t}- \lambda_{t,予算 }=0…式(1)$$

$$l_t :\beta^t \frac{\partial u(c_t,l_t) }{\partial l_t}- \lambda_{t,時間 }=0…式(2)$$

$$h_t :w_t \lambda_{t,予算 }- \lambda_{t,時間 }=0…式(3)$$

$$a_{t} :-\lambda_{t,予算 }+\lambda_{t+1,予算 } (1+r)=0…式(4)$$

$$式(1)を式(4)に代入すると$$

$$u'(c_t)=\beta (1+r) u'(c_{t+1})…オイラー方程式$$

$$式(1)式(2)を式(3)に代入すると$$

$$u'(l_{t})=w_t u'(c_{t})…労働余暇選択式$$

 

 面白いのがT期間の家計の最適化行動は、消費については「2期間の消費選択」、労働については「1期間の労働余暇選択」と同じである点である。つまり、示唆も同じである。限界代替率=価格比という最適化行動の基本に立ち返ると「利子率は今この瞬間にお金を使うことで発生する機会費用である」「賃金とは、余暇を送ることで発生する機会費用である」と言える。

 

【追記】

・賃金変化は「今期の労働余暇選択」と「異時点間の消費選択」で労働供給に影響を与える

 T期の労働も「1期間の労働余暇選択」と同じと述べたが、消費のオイラー方程式との連立方程式となっている点は異なる。だから「賃金が変わっても、1期の労働余暇選択と変わらない」というわけではない。賃金が変わると「異時点間の消費選択」を通じて労働供給も変わってくる。

 

・コブ・ダグラス(Cobb-Douglas)型効用関数の場合(αは0<α<1の定数)(ミクロ経済学でお馴染み)

$$効用関数の特定化: u(c_t,l_t)= c_t^{\alpha}l_t^{1-\alpha}$$

$$消費余暇選択式u'(l_{t})=w_t u'(c_{t})より$$

$$(1-\alpha)c_t^{\alpha}l_t^{-\alpha}= w_t \alpha c_t^{\alpha-1}l_t^{1-\alpha}$$

$$l_t=\frac{(1-\alpha) c_t}{\alpha } \frac{1}{w_t}$$

$$労働h_t=保有時間1-余暇l_tであるので$$

$$労働h_t=1-\frac{(1-\alpha) c_t}{\alpha } \frac{1}{w_t}$$

 

・ログ・ログ(Log-log)型効用関数の場合(αは0<α<1の定数)(二神・堀『マクロ経済学』第15章3節「実物的景気循環理論」、ローマー『上級マクロ経済学』第四章「リアル・ビジネス・サイクル理論」で登場)

$$効用関数の特定化: u(c_t,l_t)=\alpha \log(c_t)+(1-\alpha)\log(l_t)$$

$$消費余暇選択式u'(l_{t})=w_t u'(c_{t})より$$

$$\frac{1-\alpha}{l_t}=w_t \frac{\alpha}{c_t}$$

$$l_t=\frac{(1-\alpha) c_t}{\alpha } \frac{1}{w_t}$$

$$労働h_t=保有時間1-余暇l_tであるので$$

$$労働h_t=1-\frac{(1-\alpha) c_t}{\alpha } \frac{1}{w_t}$$